絶対零ド
□絶対零ド
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―お聞きになりまして?この度参られた、陛下の新しいご側室。なんと、あの亡きジュリアナ皇女殿下の御子様であったと!―
―お名前はなんと?―
―ラクス・セレーナ・ド・ウル・フォーレイル・クライン殿下!―
―亡きジュリアナ様に、美しい碧眼に、春を象徴しているような、あの美しい髪。晩餐会へのご出席を許された方は、女神の化身のようであったと!―
―貴い血をひいているばかりではなく、あのお美しい容姿、加え元老院議会では見事な手腕ぶりをお披露目しているようですわ―
―一目でいいから、お目にかかりたいわね―
―あら、今夜会えましてよ―
―今夜は皇宮主催の舞踏会があるではありませんか―
負けない。わたくしは誰にも負けはしない。エドワードは皇位に強く執着し、なんとしてでも、息子のキラを皇帝に就けさせたがっている。貴族達もお父様のもとで、皇族派とヒビキ派に分裂していっているという。いつまでヒビキ家の、エドワードの財力が持つのだろうか。自分に味方する貴族の大半が、金に従っている者たちだということは、十二分に承知しているはず。金が底をつき、国庫に手を出せば、わたくしたちはそれを見逃せない。そうとなれば、ヒビキ家を皇宮から、政治の社会から追放することさえ可能だ。
「絶対に、負けないッ」
もう後戻りをするつもりはない。
キラを自ら切り捨て、もう何も、わたくしを後戻りさせるものは残っていない。
―――コンコン
「……はい」
「殿下、お時間です」
「ええ」
「失礼いたします」
これで、いい。
もう何も感じない。
あの日、お母様がお亡くなりになったとき、わたくしの心は凍りついた。あの日に、わたくしのすべてはなくなった。お母様に、わたくしの心を差し上げた。
わたくしは、ラクス、ではない。
この帝国の、皇女なのだ。
自分を棄てた存在。
それが、皇族の、皇位継承権第一位の者の宿命。
『…ラクス。貴女は私より、向いているわ――私より強いもの。いい?皇というものは、孤独と共存するの。民のために生き、そして死んでいく』
『皇は、普通では務まらない。私と貴女の中にある血は、それに堪えなくてはならない』
『いい、ラクス。もし、死んでしまいと思っても、貴女一人では決めてはいけない』
『貴女は貴女のものではなく、この世界のものなのだから』
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