絶対零ド

□絶対零ド
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第三話―花嫁―




―――バンッ!




「ラクスッ!!」




何もできなくて、どうすることもできなくて、気がつけばラクスのもとに足が向いていた。
もうすっかり日がくれて、小屋の中を光無しに見渡すことができない。ただ人の気配が感じられず、嫌な予感が脳裏をよぎる。



ただ遠出しているだけなのかもしれないのに、ただでさえ何もない小屋がもっと寂しく感じられた。







「っラ‥クス。どこに」




遅すぎる。いくらラクスでも少しおかしい。森の夜は危険だから、よっぽどのことがなければ出歩かないと、本人が言っていたのに。それなのに。



父の言葉と君がいない事実が、更に僕を不安にさせる。









○●○●○●




「……!!キラッ」




一夜明け、皇宮に戻ったキラを待っていたのはアスランだった。




「…ア、スラン」




徹夜で待っていたキラは不安と寝不足で、立っているのもやっとな状態だった。キラの顔色の悪さを直ぐに気づいたアスランは、急いで駆け寄るとその不安定な身体を支えた。




「おまえっ、どこに行ってんだ!―――侯爵家の令嬢が、もう宮に来ているぞっ」




「っそん、な」




断りをいれる間なくして、ちゃくちゃくと婚礼の準備が進んでいってしまう。婚約者の宮入りと同時に、ラクスは消えてしまった。




もう、何をしていけばいいのかわからない。





「今、陛下との謁見の最中だ。お前を見つけたら連れて来いと言われている。キラ、今は父上に逆らっては駄目だっ――陛下が新しくお迎えになる公爵家の令嬢が、皇子を生んでしまったら、それこそ世継ぎ争い、内戦になるっ!ここは陛下の言う通りに結婚して、皇太子になるんだっ」





「……っ、わかった。君の言う通りにするよ」




すっかり脱力してしまったキラを、アスランは無理矢理に謁見の間に引っ張っていこうとした時、可愛らしい声が響いた。






「わたくしの婚約者様は、だいぶ腑抜けな御様子ね。しっかりなさって、わたくしのお相手をしていただきたいのに」






サラッと綺麗に伸びた桃色の髪を靡かせ、その愛らしい容姿は誰もが目を引き、侯爵令嬢としての気高さではなく、皇族の血縁者としての気高さを持った美女。





「初めて御意を得ます、キラ皇子殿下。わたくしキャンベル侯爵の娘、ミーア・レイク・ヴァン・キャンベルです――母は、ジュリアナ・レイク・ド・ウル・フォーレイル殿下と従姉妹である、ルレリア・ジュリエット・ヴァン・トリアスです」






ドレスの裾を軽く持ち上げ、慣例にそった挨拶をこなしたミーアは、青く染まったキラをニッコリと可愛らしい笑みを送った。




「……きっ、きみ!?」



「わたくしの“顔”が何か?」






小首を傾げ、綺麗に笑うミーアには隙がなくて、キラはそれ以上何も言えなかった。






「――では、わたくしにはまだしなくてはならないことが残っておりますので、御用があれば、いつでも呼んでくださいまし」




小さく会釈をしたミーアは後ろで控えていた女官たちと与えられた部屋に戻って行った。




キラはミーアの容姿が気になって仕方なかった。ラクスの失踪に合わせて、ラクスと瓜二つの美少女がやって来れば、混乱するのは当たり前だろう。キラを動揺させるくらい、ミーアはラクスに似ているのだ。




「……キラ?」




ミーアを目にしてから、明らかにキラに動揺が見え隠れしたのをアスランは見逃さなかった。






「ううん、…君の言う通りにするから安心してよ。アスラン」




そういったキラの笑顔は儚くて、今にも消えてしまいそうに弱いものだった。アスランはそれ以上言及することなく、キラを皇帝がいる部屋まで連れて行った。







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