Short Novel
□何も言わない、君へ
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―――――――
「お姉ちゃん!ちょっとあそこの店見てくるから、待っててね!!」
「いってらっしゃい、ミーア」
ラクスは照れ臭そうに手を振りながら、勢いよく走っていたミーアの後ろ姿を見送った。
「ねー?か・の・じょ。一人なのー??」
少し休もうと思ったラクス、だがそれを邪魔する声がかかった。ラクスがミーアと離れ、一人になったせいか誘いやすくなったのだろう。ラクスは不機嫌そうに、眉を上げた。
「……いいえ、一人ではありません。ちゃんと、連れがいますわ――」
「君にそっくりな娘でしょーwその娘も一緒でいいからさー!」
ちらりと後ろを見れば、男がもう一人。
「…わたくしにも、妹にも、ちゃんとした恋人がいますので――」
はったりにしか過ぎないが、諦めてもらうにはこれが得策だと考えたのだ。
「今はいないじゃん」
なかなか引き下がらない男ども。
「ですが、いますので――」
「どこに「…こ・こ・にw」
突然、ポンッと肩に手が置かれた。
ラクスは、はったりだったのに、架空の人物が現れ固まる。だが、1番驚いたのがその人物が保健医のキラだったからだ。
「僕の彼女にな・ん・か…用っ」
「はっ、へ――べ、べつに。行こうぜ!」
キラの気迫に怖じけづき、男たちは急いで逃げて行った。キラは、その姿を少し見つめ、俯くラクスの肩に手を置いた。
「…クラインさん、だいじょー…?!」
「…??」
顔をゆっくり上げ、ラクスの顔を見るなりキラは目を見開いた。
「え、あっ―――ご、ごめん!僕、てっきり“ラクス・クライン”さんだとおもって!え、も、もしかして妹、さんとか?」
眼鏡と髪を下ろしてあるせいか、少し幼く見えるのだろう?だが、もともと大人っぽい顔立ちをしているせい、今が年相応に見えるらしい。
「……ね、君さ。歌、とか歌う?」
説明すんのも難しいラクスは、ただ黙っているだけ。キラは、ラクスの黙っている行動が肯定だと思い、話しを進めた。
「――まあ、時折」
「…!!そう、なんだ――」
なにが、関係しているのだろうか?
ラクスはただぼんやり考えるだけで、聞こうとはしなかった。
「……じゃ、ね。あんなやつら、ひっかかっちゃダメだよ!」
キラは何度か頷くと、ラクスに微笑んで言うと去って行ってしまった。
「……なんな、の?」
ラクスは首を傾げ、しばし考え込んでいた。
―翌日―
今日も礼拝から始まった。だが、いつもみたいに面倒臭い気持ちがない。
―――シャー
「…あら、今日は欠伸なさいませんでしたのねー」
礼拝が終わるとタイミングよく、しまっていたカーテンがひかれる。中からは皮肉を言う生徒会長さん。でも、そんなには気にならなかった。
「おはよう、クラインさん。今日は、どんな理由ですかー」
ラクスはチラリと窓の外を見た。今日は、曇りで雨が降り出しそう。
「……偏頭痛ですわね――」
紙を受け取ったラクスは、保健室から出て行こうとする。が、珍しくキラから声がかかった。
「そういえば、…“歌姫”が見つかったんだよね。やっと――」
「あら、それはおめでとうございます」
ラクスは、興味なさそうな声で返す。
「それが、君の妹だったんだ!驚きでしょ?町でそっくりな娘がいたからさ、聞いてみたらビンゴ!」
「……?はあ」
いつ、ミーアに会ったのだろうか?
ナンパにあっていたことをすっかり忘れているラクスは、そんなことを考えていた。
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