Short Novel
□The girl who is Cinderella
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「ふ、フィオナ。今朝は仕事が無理なのですわ。テストがあるので勉強をしなくては」
すると、フィオナはラクスに言った。
「ラクス、よく聞いて。みんなが学校に行って勉強するのは、いい仕事に就くためなの。でも、あなたにはもう仕事がある。……あいだ、飛ばしていいの!」
無理矢理なフィオナの言葉に、ラクスは口をポカーンとしながら固まる。意味不明なフィオナの言葉は、8年以上一緒にいても理解できない。そんな、ラクスをよそにフィオナは催促をする。
「はい、早く行ってッ!」
「…はぁーっ」
もう何を言っても無駄だと判断したラクスは、聞こえないくらい小さな溜め息をつくと家のほうに戻っていった。
――――プシューッ
「…ひあッ!?」
家に戻る途中、芝生に水をまくパイプから水が吹き出した。ラクスは、驚いたのか軽い悲鳴をあげた。急いで機械の所へ行き、水を止めようとすればフィオナの声が響く。
「いいの、止めないで。水は出しといてちょうだい。芝生が枯れそうだから」
「で、でも!今は水不足で、節水しなくてはいけませんわっ!」
ラクスらが住んでいる地域全体が、今水不足に陥っているのだ。長い間、雨が降っていないからだ。芝生の為に、水を無駄遣いするなんて彼女には信じられない行為だった。
だが、フィオナは有無を言わさない口調で言った。
「そんなことするのは、貧乏人だけでいいのよ。水を余計に使えるのは、特別階級ってことなのよ」
そう怒鳴ると、ラクスは諦めて家に走っていく。それを見届けたフィオナは、サーモンを口に運んだ。
――――――――――
ラクスはかばんと父親に貰った青い野球帽を被り、車に向かう。道には芝生にまいた水が流れでてきていて濡れていた。両隣やむかえ、後ろやそこらへん一帯の家の芝生が枯れているのにクラインの家だけ青々としていた。
ラクスは、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。が、そんなことに気を取られているわけにもいかず、ダイナーに行くために父が残していった…今となってはおんぼろ車と呼ばれている車に乗りこんだ。
―ダイナー―
ダイナーは、ラクスの父が生きていた頃と雰囲気が変わってしまった。名前も、ダイナーから『フィオナの店』に。内装も、全て彼女が好きなサーモンピンク。店員は、サーモンピンク色の制服にローラースケート。
「アンディ!サーモン料理はもうたくさんよっ!サーモンオムレツに、サーモンスープにサーモンプディング。…やめてちょうだい」
アンディとは、ダイナーのコックだ。そのアンディに文句を言うのは、アイシャ。シーゲルが生きていた頃から働いている、店員である。アンディは眉を吊り上げ、怒るアイシャにでっかいサーモンを抱えながら言った。
「助けてくれー!フィオナに食われるー!」
「ちょ、やめてよアンディ!」
鮭の顔を震わせながら言うアンディに、アイシャは笑いながら逃げる。
「アイシャー!ぼくを食べてくれー」
アイシャは、クスクス笑いながらカウンターに滑って行った。
「はぁい、久しぶりねムゥ。いつもの、オムレツとベーコンたっぷりでいいわよね?それに、マフィンとコーヒー……」
馴染みの客であるムゥの注文を、サラサラと紙に書いていく。
アイシャがムゥの注文をとっている時、ラクスは長い髪を一つに結いあげ、ピンクのエプロンをして客が食べ終わった皿を一つの籠に集めていた。ローラースケートで床を滑りながら、汚れた皿を回収していく。
ムゥの注文が終わり、アイシャがラクスの姿を見つけた。学校のはずなのに…とアイシャは考えながら、ラクスに近づいた。
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