NO NAME

□Y-Y
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「――落ち着かれましたか?」





大好きな紅茶の香りを吸い込む。





「‥ラクス様?」



白磁に細かな蒼い彫刻が施されたティーカップをぼんやりと見つめる主人の足元に膝をついたシホは、ラクスの手に自分のを重ねる。


シホが夕食の買い物を終え戻って来た時、厨房で抱きしめ合う主夫妻を見つけた。


ただひたすらに愛を囁くキラと、彼を泣きながら抱きしめていたラクス。床に転がった酒瓶を見て事情を察したシホは、とりあえずキラをラクスから引きはがした。




身重の主を厨房の固い調理台の上に横たわらせておくこともできなかったし、キラには仕事が詰まっていた。


キラを執務室に放り込み、呆然としていたラクスを部屋に戻して紅茶を淹れた所だった。









「お身体が冷えてしまったのではありませんか?お召し上がり下さい」



シホに促されラクスはカップを手に持った。


温かい紅茶のミントの香りがもやもやとしていた思考が少し晴れて行く。





一口飲んでカップをソーサーに戻したラクスは揺れる水面を見つめた。









「・・・かしら」




「え?」






紅茶色の水面を通してどこか遠くを見つめる主人の小さな囁きにシホは首を傾げた。


深い碧眼の眼差しはぼんやりとしていて、以前と何も変わらなく思える。しかし小さな光が宿っているようにも見えた。




涙が滲んでいるから反射しているだけなのかもしれない。しかしシホにはそう見えた。









「ラクスさま?」



「‥本当、かしら」



「・・・・・」






愛する夫の仕打ちに涙を流し、そして尋ねた時と酷似する声音。


わたくしを愛しているの、と壊れかかった心でラクスは何度もシホに尋ねた。




それをシホは肯定し続けて来た。


敬愛する主人の心を少しでも護りたかったから。









「キラが、あの方が‥仰るの。わたくしのことを愛してる、って」



「‥‥‥‥」



「本当、かしら」



「ラクス様っ」





瞬きをせずに涙を流す主人にシホは息を詰めた。胸が押し潰されてしまいそうに苦しい。








「わたくしのことを愛してる、って。お腹の子どもも愛してる、って。本当、なの?」





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