NO NAME
□Y-Y
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「そこにお生まれになったのが、キラ様でした。ユーレン様と違い剣術の才能に溢れたキラ様を教育なさったのは御祖父様です。幼い頃にご両親と離れ剣を学ぶ日々。御祖父様はキラ様を孫としてではなく弟子として接していたそうです」
「‥キラ、が」
「一番甘えたいお年頃に甘えられず、またご両親もお忙しい方たちです。そのせいではないか、と以前カガリ様からうかがいました」
キラがラクスに恋心を抱いている、と最初に気づいたのはカガリだった。素直にならず自分の心を無視し続けていると、シホにこぼした時、そう語った。
愛を知らず知ろうとしないキラを見守ってほしいと、頼まれた時にシホは聞いた。
「素直に好意を示すことに慣れておられず、空回りしてしまっていらっしゃるのです。キラ様はそれに最近までお気づきではありませんでした。酷く反省しておられました」
「・・・・っ」
握り締められた拳に更に力が篭った。肩が奮えこぼれ落ちた涙がドレスに染み込んでいく。
「き、キラは、っ‥‥わたく、し、を……本当に、愛して…るの…っ?」
ずっとずっと言い聞かせてきた。
傷ついて壊れてしまいそうな主を引き留めたくて。いつか幸せになってほしくて。
かつては嘘で引き留めていた。
けれど今は、その必要はない。
「もちろんです、ラクス様っ」
「っ…ぅ、ほ、ほんと‥う?」
「どうして、そうお疑いに?シホはラクス様に嘘は申しません」
泣きじゃくる主人を抱きしめながらシホも涙を流していた。やっと、求めていた時が来ようとしていることに胸がいっぱいになる。
地獄から逃げ出せても心は昏い闇に囚われたままだった昔。そこから救ってくれたシホの聖女――ラクスが幸せになること。
それがシホの望みだった。
嘘はつかない、と偽りを言いながら、ずっと待っていた。
もうそんな偽りも必要ない。
それがとても嬉しくて泣けてくるのだ。
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