NO NAME

□Y-Y
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疑いながら、本当は信じたいと願っている。



ただ臆病になっているだけ。混乱しているだけ。キラの変わり身はラクスを困惑させ、逃げる場所を無くしてしまった。


キラは自覚した愛情を上手く伝える術を知らなかったから、余計拗れていったのだ。








「‥わたくしとの子どもなら、十人でも二十人でもほしいと、仰るの」



「・・・・」





極端なキラにシホは絶句した。



子ども嫌いと常々こぼしていたのに、恋心を自覚した途端に。


それでは混乱するのも当たり前だ。






シホは呆れた溜め息をつき、そして口を開いた。









「‥‥キラ様は不器用なのです」



「シホ?」





シホはラクスの握り締められた手に優しく触れる。涙に濡れた碧眼を見つめ、苦笑いをこぼして言った。








「――キラ様は愛情に触れる機会があまりなかったのです」




シホが語り始めたのはラクスの知らない夫の過去。ラクスが知るキラは出逢ってから今までのことだけ。






「?」




離宮に隔離され軟禁生活を強いられた王女だったけれど、ラクスは家族の愛を溢れんばかり受けてきた。家族の愛だけしか知らなかったといっても過言ではない。


外では当たり前の騙し騙されるといったことからは遠く離れてきた。




そんなものを知らないでいた。








「キラ様の御祖父様は将軍宰相として名を馳せた方でした。けれどご嫡男であられるユーレン様は剣術の才能がありませんでした。御祖父様は酷く失望しておられたそうです」







宰相としてだけではなく軍人としても優秀だったキラの祖父は、研究にしか才を見せなかった息子ユーレンに自身の技術が受け継がれないことを日々嘆いていた。


宰相として優秀であることよりも、軍人であることを求めていたのだ。聖女信仰の下、長い平和を謳歌している、それは表向きのことで裏は異なる。




各国に諜報員を潜り込ませ均衡を保っているからこそ戦争は起こらない。圧政に苦しむ不満を溜めている民がいる国にはプレゼントを贈ることもある。


優秀な指揮官を貸すこともあるのだ。







偽りの聖女の力の為に、王家とヒビキ公爵家はありとあらゆる布石を打ってきた。








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