NO NAME

□Y-X
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頬に温かくて柔らかいものが触れる。



すっと優しく撫でられる心地にラクスは目をゆっくり開けた。











「――気分はどう?」






ぼんやりと瞳を開けていると、視界にキラの顔が飛び込んできた。

撫でる手と同じで優しい微笑みを湛えている夫に、ラクスも淡く微笑む。








「大丈夫ですわ」




起き上がった妻をキラは直ぐに支えた。


ラクスの背中にクッションを重ね、水を差し出す。柑橘類が搾られた水は爽やかで、伏せていた気分も和らぐ。








「どこかに、行ってらしたのですか?」




水をゆっくりと飲む間も、隣に寄り添い髪を梳いていた夫にラクスは尋ねた。


悪阻の影響でここ何日も気分が優れないラクスはベッドの上に居ることが多い。

そんな妻を想ってキラは自ら滋養に良いとされる食べ物を買いに外出したりすることが増えた。











「うん。これ、買ってきた」





キラはにこりと微笑み、ベッドの下に置いてあった紙袋を引き上げた。









「見て?可愛いでしょう?」



「‥‥‥」




キラは外出できないラクスに食べ物を買ってくることもある。しかしそれ以上にベビー用品を多く買いあさっていた。


服やおもちゃ、絵本など、ラクスが双子に買い与えていた量とは比べものにならないくらいに既に買い込んでいる。



以前双子が使用した客室はそんな品で溢れかえり物置状態であることを思い出したラクスは、シーツの下で手を握り締めた。








「はやく生まれないかな」







まだあまり目立たない自分のお腹に頬を寄せた夫を見下ろして、ラクスは息苦しさを感じた。性別も分からないのにたくさんの服を買うのを嗜めても聞く耳を持たない夫。



お腹に顔を寄せたり、優しく撫でたりする。


そんな望んでいた光景に苦しみを感じているラクスは戸惑っていた。





アスランに呼ばれた医者に妊娠を告げられた時から、時間は進んでいく。けれど心は置き去りのまま。


キラやシホたちのように妊娠を喜べない。


ラクスは妊娠を恐怖していた頃のまま、何も進めていなかった。







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