NO NAME
□Y-X
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躯が重い。気持ち悪くて何も食べたくない。
シホが教えてくれた。これは病気ではないそうだ。倦怠感も悪心も妊娠しているから。
子ができると顕れる症状だと、説明してくれた。
子がいる。お腹の中に、愛している夫の子が宿っている。ぺったんこのお腹にキラとわたくしの子どもが。
憧れていた家族が。
ルイとメアリが屋敷に来た時、すごく辛かった。結婚する前、キラが子どもは要らないと言っていたのを偶然聞いてしまった時のことをわたくしはよく覚えていたから。
子ができると嫌われてしまう棄てられてしまうと信じ、わたくしはずっとシホの紅茶を飲み続けてきた。聖女の役目を放り投げ、王女の身分を棄てたわたくしにはもうキラしかいない。夫への愛しか持っていない。
だから何よりもキラが離れて行ってしまうことが怖かった。恐怖で心が壊れそうになるほどに。
だから子どもは欲しくなかった。
キラを煩わせてしまう子は要らなかった。
けれどルイとメアリが現れた時、わたくしは思ってしまった。
キラは子が欲しくないのではなく、わたくしとの子が欲しくなかったのだと。
わたくしだから、要らないのだと。
苦しかった。この結婚が避けようのない政略結婚であることは承知している。
キラが語る愛は偽りであると理解している。
愛していないわたくしではダメで、ルイとメアリを生んだ方ならよかった。その違いは、きっとキラが愛しているか否か。
キラには愛した方が居たのだ。
けれどお父様の命に背くことはできなくて、それで――そう考え出したら、もう止まらなかった。哀しくて、辛くて、痛くて。
涙がとまらなかった。
隠し子が現れたとしてもキラはわたくしとの婚姻を解消することはできない。
それならば、母親をなくしたルイとメアリをわたくしが育てようと考えついた。
二人の母親に激しく嫉妬したのは事実だけれど、何よりもルイとメアリがキラの血を継いでいるなら、愛せると思った。
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