NO NAME
□Y-W
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アスランはラクスの姿に慌てて立ち上がり、膝を折る。
聖女伝説の真実を知っても長く信仰してきたアスランは元王女であるラクスに対しては騎士としての態度が出てしまう。
「ラクスっ」
「アスランが来ていると聞きました。一言、ご挨拶がしたくて」
「体調が悪いんだから寝てなくちゃ」
突然現れた妻に駆け寄ったキラは、青白い頬を優しく撫でた。その感触に淡く微笑むラクスをキラは抱き上げ、ソファに一緒に座る。
「アスラン、お久しぶりですわ。顔を上げて座って下さいな」
「ご無沙汰しておりますラクス様」
椅子に座り直したアスランは控え目に向かえに座ったラクスを見る。あからさまに見つめたりすると命が危なそうなのだ。
ラクスへの恋心を自覚したというキラの態度は妻が登場してから見たことが無いほど丁寧で優しい。
長い付き合いで、親友が女を連れている所を数え切れないほど見て来たアスランは、ここまで慎重なキラを知らない。まったくの別人だと言われても納得してしまいそうだった。
妻への想いが本物でとても深いという証拠だ。
「――カガリさんに子が生まれたと聞きました。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「もう少し大きくなりましたら、わたくしにも会わせて下さいませ」
双子の一件で深く傷ついたと聞いたが、その傷は癒えたのだとアスランは感じた。キラがその判断をしたから、子どものことを報告したのだろう。
「お加減が悪いと聞きましたが、大丈夫ですか?」
「悪い。帰れ」
「・・・・」
態度が悪い義弟はもう放って置くことに決めた。ラクスが此処に居る以上はきっと自分の身は安全だと判断したのだ。
「今日は城下で人気の菓子を持ってきました。甘いものがお好きとうかがっていたので紅茶と一緒に召し上がって下さい」
これまでは酒を手土産にしてきたが、何故かカガリに止められたアスランは商店街で人気の菓子をテーブルの上に置いた。
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