NO NAME
□Y-V
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『――ラクス様』
シホの声で目を覚ましたラクスは直ぐに頭がすっきりしていることに気づいた。
靄がかかっていたはずなのに、今はとてもクリアになっている。
シホは目覚めた主の身体を清め、夜着を着せると用意していた水差しを差し出した。
『お酒をお召しになったと聞きました。ご気分はいかがですか?』
『‥‥‥』
ラクスはコップを受け取り、檸檬の香がする水を飲んだ。
しかし一口飲んだだけで、コップをシホに突き返す。
『ラクス様?』
『これじゃない』
『ぇ』
『これでは、ありません』
『‥‥‥‥』
頭がすっきりする水は欲しくない。
わたくしが欲しいのは。
『ねぇ、シホ』
『・・・・』
『お酒を、ちょうだい?』
わたくしはお酒が欲しいの。
お酒を飲んでいれば痛くないのですもの。
わたくしは嗤っていられるの。
『――ちょうだい‥?』
『…は、はい』
シホは頷くことしかできなかった。
無自覚に涙を流しながら酒を欲しがる主人を前に、願いを叶えることしか思い付かなかった。
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