NO NAME
□Y-U
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シホから手渡された手紙はヒビキ家が使用する正式な封筒に入っていた。
しかし砕かれた蜜蝋に捺された紋章はアスランのものだ。姉の夫である親友がヒビキ家の封筒を使って出した手紙。
それだけで、厄介なにおいがプンプンと香っている。
正直、このタイミングで、ヒビキの仕事などを抱え込みたくない。
妻のラクスをケアすることに時間の全てを遣いたい。とはいえ、無視をすればそれはそれでまた面倒なことになる。
たった一枚折り畳まれた紙がキラにはやけに重く感じられた。
「はぁ」
「キラ様?」
内容も確かめず重い溜め息を吐いたキラにシホは首を傾げた。アスランからの手紙だとシホも気づいている。カガリやユーレンから来る手紙よりは面倒な内容ではないはずだが、確かめたくないとヒシヒシ感じる。
「‥‥わかってる」
シホに名を呼ばれたことが催促だと捉えたキラは、手紙を開き書かれた文書にザッと目を通した。
「・・・・」
「アスラン様はなんと?」
頭痛い。
手紙の内容を知ったキラが思った感想だ。
事実と要望。その二つは今の状況から考えると大変頭を痛める事柄だった。
何も言う気になれなくて、キラは無言でシホに手紙を渡す。
「……」
両手でそれを受け取ったシホもキラと同じく無言になった。
「・・キラ様」
「‥‥‥な、に?」
「――縄をご用意致します。それでユーレン様を縛り上げましょう」
「…、それで?」
「椅子に張り付けて、そしてお仕事をしてもらいましょう。それが一番です」
仕事をしない父ユーレン。
趣味である薔薇の品種改良だけに情熱を捧げる宰相。仕事をしない父親に仕事をさせるという発想は、駄目父に慣れてきたキラやカガリからは中々生まれない。
生まれても冗談で片付け、自分で仕事をすることになる。そのほうが速いからだ。
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