NO NAME
□Y-U
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「ラクス様のお名前を出せばいかにユーレン様とはいえ、きっとお仕事をなさって下さいます。ヒビキ家の血は無視できないでしょうから」
「う、うん」
研究第一の父親だが、シホの言う通りラクスには甘い。と言うより、王家に甘いのだ。
キラが王家になんだかんだ逆らえないのと同じで、ユーレンも王家には特別な感情を持っている。
その特別な感情は時に趣味第一の心根は曲げるし、親子間の情をも越えるのだ。
「鎮静効果の強い紅茶をお出し致しましたのでラクス様は明日までお目覚めにならないと思います。ですからそれまでにお片付け下さいませ」
「は、はい」
頭を抱えていただけの自分と違い、対処法をスラスラと語るシホにキラは素直に返事をした。自然と敬語になってしまう。
「では縄と、そして御祝いを持って、行って来て下さい」
「了解、です」
シホの指示にキラは背筋を伸ばす。あと少しで敬礼までしてしまいそうになった。
「ラクス様には少し落ち着いてからお伝え致しましょう。・・・今は、まだお辛そうですから」
シホは固く閉じられた寝室の扉を見つめる。
双子を失ってもう3ヶ月経った。
二人が生活していた部屋も綺麗に片付けてしまい、もとの客室に戻っている。
それでも時折、ラクスはその部屋に入って時を過ごすことがある。
心に残った傷がまだ癒えていない証。
夫に隠れてそれをしているつもりでいるが、もちろんキラは知っている。
見知らぬ子どもを未だ追い掛ける妻の姿に、件の子爵家に制裁を加えたくなるがラクスの望むことは他にあると解っているから何もできないでいた。
ラクスに避妊薬を飲むのを辞めさせてから同じく3ヶ月。この状態でもし妊娠をしても、きっと悪影響にしかならない。
望んでいても、状況は最悪だ。
「――二人には僕から説明しとく」
「はい」
カガリが出産した。
生まれたのは健康な男子。
慶事だがラクスにとってタイミングが悪い。
姉夫婦もラクスの状況を知れば、仕事を押し付けてくることはないだろう。
きっと父親捕獲作戦にも協力してくれる。
「……ラクス」
今、必要なもの。
それは妻とゆっくり話し一緒に過ごす時。
それを獲得すべく、キラは屋敷を後にした。
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