NO NAME
□Y-T
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「――ラクス様の元に行って、いったいどうなさるおつもりですか」
「どうって、‥な、慰めたり」
「躯で、ですか」
キラは目を見開いた。
シホからそんな言葉が出たことに対する驚きと、図星を当てられたことの気まずさに。
そんなキラの胸中が手に取るように解るシホは大袈裟に溜め息をついた。
「まったく。貴方というお方は」
呆れている、という態度を隠しもせずに振る舞うシホにキラは不満そうに眉を寄せる。
しかしそんな虚勢も、優秀な彼女の一睨みで簡単に崩れてしまう。
「毎日毎日、時間も気にせずにラクス様に襲い掛かって。ラクス様のご体調を少しは考えて下さい。発情期の獣でも、相手を労る気持ちはありましてよ」
「はっ、発‥!‥獣・・っ」
「お抱きになれば気持ちが通じるとでも?はっきりと申し上げますが、それはただの勘違いです。そんなのは独りよがりです」
「ひ、独りよ、がり」
ぐさ、ぐさ、と丁寧な口調に包まれた言葉は的確にキラの胸に突き刺さる。
「だいたい、今までラクス様のお気持ちを散々無視していらしたのに、自分の恋心に気づいた途端にころりと態度を変えて気持ちを押し付けて。勝手をなさるのはいい加減になさって下さいっ!そもそもこうなったのは自業自得だというのを分かっていらっしゃいますか?!」
話しているうちに興奮したシホはテーブルをバンバン叩き出した。その様に呆気に取られ、キラは思わず呟く。
「シホ、‥‥変わった、ね」
出会った頃の昏いシホの姿が今でも脳裏に焼き付いているキラは、現在の彼女の様子は目を瞠るものだった。
シホは闇を克服し、強くなった。
「変わりもしますわ!本当に貴方様はカガリ様の仰る通り、図体ばかりの大きくて素直じゃない子どもそのものですっ!」
「・・ご、めん」
いつの間にか、シホの瞳から涙が零れ落ちていた。
「もっと、ラクス様のお話を聞いて差し上げて下さい。‥‥愛し合って、いらっしゃるのですから」
「‥うん。ごめん、シホ」
キラは泣き出したシホを引き寄せた、慰めるように頭を撫でる。慰め方を知らない訳ではないのに、主人を前にした時にはそれを発揮できないキラを情けなく思いながら、シホは涙を我慢しなかった。
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