突発倉庫
□凡人の不器用な恋の仕方X
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「‥‥ッ」
けれどその想いを告げるための勇気を覚悟を、キラは持っていなかった。
「わたくしがお嫌いなら、そう言って下さればよろしかったのに」
ぽたぽたと床に涙が滑り落ちる。
その痛ましい姿に胸が刔られ、キラは息をするのも辛くなった。
「ら、く」
「…もっと、はやく、おっしゃって…くだされば――わたくし、は、っ」
わたくしは、の後に続く言葉は嗚咽で出てこなかった。
(・・・あと、一押しだ)
あと少しで終わらせられる。
この不毛な恋心を、くだらない関係を。
「‥‥君のことに、気を遣うのに疲れちゃったんだ」
キラは火がついたままの煙草に手を伸ばし紫煙を燻らせる。慣れない煙に泣いていたラクスは蒸せた。
「こほっ‥っ」
喉に悪いから、と煙草を避けてきたラクスは煙に弱かった。
咳込むラクスを視界におさめ、キラはもう一度煙を吸い込む。美味しいとも思えない苦い煙を平気な顔を装って。
「――君に振り回されるのはもう懲り懲りだよ」
「‥そんな、のっ」
煙草をくわえるキラをラクスはじっと見つめた。彼の言葉ひとつひとつを、内で噛み締める。煙草なんかで話を終わらせようとしているキラが憎らしくなった。
ラクスはさっと視線を泳がせサイドテーブルに置かれた煙草の箱とライターを確認すると、何も考えずに手を伸ばす。
「!?」
「こん、なの、‥‥理由に、なりません。煙草くらいわたくしはっ」
ラクスは箱から煙草を一本取り出し、目の前で火をつける。煙りを上げる煙草を見つめ、一度息を呑むと、ラクスはゆっくりと口許に運んだ。
「っ‥‥や、めろ!!」
ラクスの口に含まれるすんでのところで、煙草はキラの手で握り消された。
「っく」
「――?!!」
火の消された煙草がキラの手の中から滑り落ちる。皮膚が焼けた痛みに呻くキラに、ラクスは目を見開いて狼狽えた。
「き、キラッ」
手を押さえ床に膝をつくキラが火傷を負ったと分かると、ラクスは真っ青になった。
「やけ‥火傷が、っ・・手にっ!」
「…っ、こんなの、たいしたことない」
「速く冷やさなくてはっ!手がっ、・・・ぁ」
混乱していた頭が暗く染まっていくのを感じたラクスは、目の前まで見えなくなった。
「……キ、ラの・・手が――ピアノ、が……わ…たくし…がッ」
(・・・・終わった、か)
ラクスの嗚咽がキラには終焉の音色に聞こえた。
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