突発倉庫
□凡人の不器用な恋の仕方X
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「・・そんな、の」
俯いて、唇を噛み締めて、キラの言葉を聞いていたラクスは、暫くの間黙っていた。
そして顔を上げ、キラを睨みつける。
涙を溜めた碧眼に睨まれたキラは、息を呑んだ。ラクスが感じていたように、キラもこんな眼差しを向けられたことはない。
「そんなのは嘘っ!音楽のことは関係ないはずですッッ」
「……っ」
「どう、し、て?・・どう、して本当のことを仰って下さらないのっ」
音楽のことは関係ない。
何故ラクスがそう思うのか、断言できるのか、キラにはわからなかった。
ピアノを辞めたのにこじつければ、きっと納得してくれると思っていたのに。
それ以外の答えを用意していなかったキラは、何も言えなかった。
沈黙は肯定。しかしそれが無くてもラクスには確信があった。
音楽が理由じゃない。
それは最初からわかっていたのだ。
(うそつき、うそつき、うそつきっ!)
卑怯です、とラクスは小さく小さく呟く。
きっと少し前ならばその理由で納得できた。
でも今はもうそれが嘘だと断言できるのは、あの日があったからだ。
ちゃんとお話してと訴えてもはぐらかそうとするキラが、ラクスは赦せなかった。
「……わたくしが、‥煩わしいのは、」
嘘をついてまで突き放そうとする理由を、ラクスは一晩中考えた。
そして出た答えはたったひとつだけ。
その答えに行き着く度にラクスは涙が止まらなかった。違う理由がないかと模索した。
でも一番納得できたのはそれだけ。
「…キラは、わたくしのこと‥厭うて、いらっしゃるのでしょう?」
「!」
グサリと、ラクスの言葉はキラの胸に突き刺さる。そんなことはない、そうじゃない、と叫びたくなった。
絶望に塗り潰されていても、消えない恋心。
ラクスを逃がしたいと訴える理性こそ、棄てきれない恋心だった。
その心が悲鳴を上げる。
好きだと激しく訴えている。
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