突発倉庫

□凡人の不器用な恋の仕方X
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(‥‥好きなだけじゃ駄目なのに、ッ・・なんでっっ!)







なんで僕には才能が無いんだろう。


なんで彼女には才能が有るんだろう。



なんで、なんで。





そんな考えにずっと囚われた。




そしてある答えに行き着いた。








(――ラクスに才能さえ無ければ)




一度もそんなこと考えたことなかったのに。


絶望に囚われた僕は、ラクスの才能が憎くなった。彼女に歌の才能さえ無ければこんなに思い悩むことはない。





自分と同じ凡人なら、僕はずっと一緒にいられる。








『‥‥声さえ、無ければ』




僕はおかしくなってた。


目の前が昏くて、思考に靄がかかったみたいで、善悪の判断が億劫で。









『…ラクスが、歌わなければ』





気づいたら眠っている彼女の首に指を絡み付けていた。


僕は彼女の喉を潰そうとしていた。





――僕は彼女を壊そうとした。





壊れてしまえばいいと思ってしまった。








『・・ぼ、く、…な‥に、やっ、て……ぅ、そ』





我に返った指は震えて、心臓は煩いほど鳴って、頭が痛くなった。


我慢できなくて家に逃げ帰って、ずっと暗闇の中で震えた。




怖かった。誰でもない自分が。





ラクスの喉を潰してしまおうと思った心が、恐ろしかった。




彼女の声を歌が好きなのは、誰よりも愛しているのは、自分自身なのに。それなのに無くそうとするなんて。



自分で制御できない想い。





恋慕する傍らに寄り添う憎悪。





彼女のに恋い焦がれるのを止められないのと一緒で、その才能を憎むことを、僕は止められなかった。


音楽を続けてる以上、僕はずっと才能という言葉に取り付かれて、愛している女の子を憎みつづける。


この矛盾を解決する方法を、僕は一つしか思い付かなかった。





彼女を壊さないことを優先させることを決めた僕は、音楽を棄てた。夢と約束を諦めた。





恋心を胸の奥に仕舞って蓋をした。








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