突発倉庫

□凡人の不器用な恋の仕方X
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学校は違ったけれど、それでも暇さえあれば僕がピアノを彼女が歌を、と音楽も共有し続けた。





そして大切な、何にも換え難い約束をした。











『夢?』



『はい。キラの創る曲で、わたくしが歌う。それがわたくしの夢ですの』



『…僕、の、曲で』



『キラのピアノが、紡ぐ音が、わたくしの歌になるのです。それはとても素晴らしいことですわ』



『うん。僕もそう思う!』



『では約束いたしましょう?わたくしは歌を、貴方はピアノを』









二人で頑張って、将来は一緒に音楽を。



それを目標に僕は頑張った。





けれど、時が経つにつれ、僕は大きな壁にぶちあたった。




どんなに練習しても勉強しても、音に満足できなくなってしまった。




時折訪れるスランプだと思ったけれど、中々抜け出せないそれに一つの結論が出た。






それが才能という言葉。



僕は天才という言葉を知っていた。


そして天才という存在を認めていた。




ずっと近くで天才を見てきたから、僕は才能の存在に機敏になっていたと思う。




僕には無い才能というモノにショックを受けなかった、というのは嘘だ。



ショックだった。悲しかった。



でもこればかりはどうすることもできない。




才能が無くても頑張って技術を身につけ有名になった人たちは居る。



だから絶望することはない。



変わらずに僕は頑張る。






夢と約束のために。好きな女の子と一緒にいるために。








才能の有無に気づいた頃、僕は彼女に抱いている感情の変化にも気づいた。


ずっと一緒にいた幼なじみ。きょうだいみたいに育った彼女。





けれど胸にある想いは親愛じゃなかった。




彼女とずっと一緒にいたい。その想いは紛れも無い、愛情からくるものだった。





だから余計に頑張れた。



未来の為に、彼女の為にと。





でも何も変わらなかった。




そして彼女の落胆に気づいてしまった。



才能が無いと気づいた時より、ショックだった。立ち直れないほどの絶望を感じた。





いくら頑張っても、才能の無い凡人の僕では、天才の彼女に見合う音を曲をあげれない。



その事実はどこまでも暗かった。



光り輝いていた夢を真っ黒に塗り潰すには十分だった絶望に僕は追い詰められた。







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