§Secret§
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Episode.\<亡霊>
「―――ラクス」
「……れ、い」
椅子の上で微睡んでいたラクスは、レイに肩を優しく揺すぶられ意識を浮上させた。
視界も思考もはっきりせず、ぼんやりと呆ける。
「眠いのか?」
レイの問い掛けにラクスはゆっくり頷く。
近頃の彼女はよくこうして暇な時間があると微睡むようになったのをレイは知っていた。
それは夜、眠れていない証だった。
仕事がない日はピアノをラクスが寝るまで弾くレイだが、売れっ子ピアニストでもありクライン会の優秀な手足である彼は、大変忙しい身である。
婚約を発表し、クラインの顔としての仕事も加わったレイは世界中を飛び回り、数時間の空き時間を確保できるものなら、婚約者となったラクスに会いに来る生活を送っていた。
クライン本家の娘と婚約している彼を仕事以外で引き留めよう思う人間も幸いいないので、時間帯はバラバラだが、レイはラクスとの時間を確保できる。
しかし時差の関係上、いつも夜に帰り、子守唄代わりのピアノを弾くことは叶わない。
「……今日はもう欠席しても」
心配性が顔を出したレイに、ラクスは淡く微笑んでから首を横に振った。
「いいえ。婚約者として、一人のファンとして、貴方に恥はかかせられませんわ」
二人はクライン系列のホテルの一室にいた。
今夜行われるパーティーに婚約者同士として出席するようにクライン会が薦めてきたからである。
レイが忙しく中々二人の時間がとれないから是非に、という言葉とともにラクスはクライン会からパーティーの招待状とドレスを受けとった。
今まで公なパーティーに出席することはなかったが、婚約を機に、クライン会は積極的にラクスを出そうとするようになった。
その場合は必ずしもレイを同伴させ、この婚約を周囲に深く印象づけようと考えたのだ。
ラクスとレイの婚約は、クライン会にとって現在最重要案件として扱われている。
クライン会の動向は、今や会の中で最高権力者となったチャールズ・クラインその人に握られ、意思が強く反映されていた。
婿入りであるチャールズだが、本家が血統主義であるのと違い分家の最高機関であるクライン会は根っからの実力主義なため、権力を握ることができのだ。
経営する企業の実績や、クライン財閥に与える価値の大きさでクライン会の長老は選ばれるが、その中でもチャールズは筆頭。
チャールズの意向がそのままクライン会の意向として、ラクスに伝えられる。
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