絶対零ド
□絶対零ド
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第二十七話―巫女―
『――第一皇子、キラ・アレクド・リア・ヒビキの名において提案させていただきたい。次代の大御巫には―――第一皇女ラクス・セレーナ・ド・ウル・フォーレイル・クライン殿下を推挙致します』
“大御巫”への指名。
神への信仰心が厚いこの国で、神事を司ることはとても重要。
皇家の中で、一番民たちに近い存在が大御巫に就任にする巫女だ。
母、ジュリアナも、大御巫として民衆たちと触れ合う機会が多かったという。皇室の人間は公式の場に姿を見せるがそれ以外はない。
また皇の御子は成人前に姿を見せることがないのが、古い皇室の伝統でもある。しかしその例外が大御巫に就任する皇女だけだった。
皇女が不在の時は皇族の中から一番皇に近い女子から選ばれるのが慣例である。
第一神殿での公式行事は多く、その度に神官長である大御巫は儀式を仕切る役目にあるのだ。
祭政分離の統治体制をとっているといっても、神権は自ずと皇に属するものだった。
神権の力を裏で巧に操るのも皇として必要な能力の一つ。
しかし現在の皇家は異例なものであり、神権を利用できないことは事実苦しいものだった。神権によって民たちをまとめ、帝国の礎とすることができないのだ。
ミーアが大御巫へ就任した当時、中継ぎとして皇位を継承していたエドワードは力不足で皇族の勢力を抑え切れず就任を了承してしまった。そのせいで十数年に渡り、エドワードは神権の力を利用できずに統治しなくてはならなかったのだ。
神権、つまり神の加護がない皇家は民たちの支持が得られにくい。
その不足分は戦争での勝利や、よりよき政策で補うしかなかった。
皇族や皇女が就任する伝統の大御巫。手元にその資格がある姫巫女がいながら、何もできなかったエドワード。
聖少女とさえ謂われている金の一姫こと、カガリ・アレクサンドラ・ユラ・ヒビキは民からも信頼厚い、大御巫へ就任できる唯一の彼の手駒。
ミーアが大御巫から退くと決まった以上、エドワードは何においてもその姫を据えるはずだろう。
しかし、彼の息子は、違った。
神権を手放してまで、わたくしを、公務から。
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