憧憬之華

□弐拾参
2ページ/6ページ












『――自由になりたいか?』








嫁いで一年が経ち、桜の季節が終わった頃、唐突に総督閣下はわたくしにそう尋ねた。






―――自由。


籠の鳥でしかないわたくしに自由?


護ってもらうことしかできない、愛する男の毒にしかならないわたくしに自由?




そんなのは存在しない。





馬鹿馬鹿しい問いだと思った。
けれど。










『――はい』




存在しない。馬鹿馬鹿しい。


そう思うのに。



そう応えてしまった。









『……自‥由に、なり、たい…っっ』






自由になりたかった。


籠から抜け出したかった。









『‥‥強く、なりたいっ――!!』




強くなりたかった。



護られるだけじゃなくて、護れるくらい強くなりたかった。










『――なら、そこから出ろ。そこはお前の父親が用意した箱庭だ』




『‥‥か、閣下ッ』




『最初の一歩だ。自由になりたいなら、強くなりたいなら、前に出ろ』







わたくしの鳥籠の鍵を開けてくれた、箱庭の扉を開けてくれた、旦那さま。




あの方にわたくしは掛け替えの無いモノをくれた。






わたくしが今立っていられるのも全て、あの方のおかげ。







鳥籠から箱庭から出て三年。




わたくしは離縁された。







もう自由だから、強くなったから、好きに生きていけ。






そう仰って、わたくしを蓬蓮から出して下さった。






父がわたくしを総督閣下に預けた理由。




それを知るまで、わたくしは四年もかかってしまった。












『――ラクス、お前はもう自由だよ。好きなようにしなさい』








家にいて華だけを見る生活に戻ってもいい。


結婚したいなら素晴らしい相手を見つけてこよう。


鳥籠に戻ってもいい。


自由に選んでいいんだよ。

反対しない。協力しよう。









『……お父、さま――』








シオン、リオン兄様と同じで、身を案じて下さった。そして、護られなくても生きていく強さを教えてくれる閣下の許に導いて下さった。









『・・わたくしは、……後宮の、女官に、なります』




『…わかったよ』







結婚はわたくしから何も奪わなかった。


自分の力では決して手に入らないモノを貰った。与えられた。





自由が望んだのは、たった一つ。




――貴方の傍にいたい。








どんな形でもいいから、傍にいたかったの。








.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ