憧憬之華

□拾伍
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先輩女官から渡された書類を吏部に持って行くように言われたフレイは、悶々としながら回廊を進んでいた。




昨夜見た光景が寝ても覚めても忘れられず、寝不足だしイライラする。





すれ違う官吏がフレイを見るたび赤くなっているが、そんなことすら頭に入ってこない。







昨夜のあの光景。





片恋男宜しく切ない表情をした皇帝。




皇帝が去った後、泣き崩れていた同僚。








何も無かった、など口が裂けても言えない。




一瞬、女遊びが激しい皇帝に手を出され、それに抵抗した後かしら、と思った。



しかしその無理矢理に創った結論は、脳裏に焼き付いた皇帝の表情で直ぐさま否定されてしまった。





皇帝の表情は、一時の恋心や抵抗され切ないという類ではない。




長年恋い慕ってきた男の顔。







しかし二人の接点の検討がつかない。






皇帝がクライン宗家に匿われていたというのは有名な話だ。しかし、ラクス・クラインはクラインの名を持っていても、宗家とは関係ないはず。






いくら考えても考えても、フレイの頭を巣くう疑念は晴れない。










「・・はァ」






皇帝と同衾し寵愛を受ける。




その使命を負っているフレイにとって、その方法以外で頭を悩ましたくない。






誰にも執心していない皇帝を自分に夢中にさせる自信はある。






他の女に執心の男を自分に夢中にさせる自信も無くも無い。




いろいろ手はあるだろう。







しかし、執心している女の面影を求め他の女に手を出している男を、自分に夢中にさせる自信は、はっきり言って無い。








フレイは自身の両頬に垂らしてある緋髪を一房掴み見つめた。





皇帝が好きな緋髪。






けれどそれがもし間違いだったら。











――皇帝が好きな髪が、“緋ではなく桜”だったなら。





世にも珍しい桜色の髪。







フレイはラクス以外、あの髪を持った者は知らない。彼女の髪色がとても珍しいことぐらいフレイも解っていた。




桜色の髪が好きで、でも他にいないから、緋い髪の女官にばかり手を出し、そして薄緋髪の側室を一番寵愛しているのなら。








「‥最悪だわ」








辿り着いた最終結論にフレイは思わず呟いてしまった。




たった一度のことで話が飛躍し過ぎているのは重々承知している。






馬鹿げているとも思う。



しかし胸に芽生えた疑念は消えなかった。







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