憧憬之華
□拾伍
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「‥わたくしは、後宮で女官を続けたいと思っております。どうかお許し下さい、皇帝陛下」
「‥‥‥ッ」
もう心が耐え切れなくて、目を伏せてしまった。でもこのまま何もできずに宮廷を、彼の傍から離れたくなかった。
だから女官であることを許してほしかった。
「‥宮廷で、また新しい男でも探すつもり?男なら誰でも媚びを売る君らしいね」
「………」
冷水を浴びたように身体が震えた。
違う、と叫びたかった。
愛おしいあの日々を、根底から覆すような言葉を否定したかった。
「……どうか、お許し下さい」
けれど、何を言っても無駄。
わたくしは女官であることの許ししか口にできない。
どんな詰りも罵りも、甘んじて受ける。
それこそが償い。
否定されてしまうのが辛い。
しかしその辛さこそが罰。
「…………」
彼は何も言わず立ち去ってしまった。
ズキリズキリと頭が、胸が、心が、腕が、喉が、身体の至る所痛くて苦しくて。
彼を追い掛けようと無意識に動いてしまった身体は、東屋を出ると動かなくなった。
追い掛ける資格も、何かをする資格もない。
小さくなっていく背中が、熱いモノで霞んで見え無くなってしまった。
もっと見ていたいのに。
堰き止めていた涙で叶わなかった。
彼の前で流すことができなかった涙で、嗚咽で、もう立っていられなかった。
――辛い、苦しい、痛い、哀しい。
望んでいたことでも、胸が裂ける刔られる。
愛してる、愛してる。
傷つけられても、憎まれていても、やっぱり愛してる。
貴方がわたくしを見なくても、他の方を愛していても。
ごまかせない。騙し続けれない。
もう昔に戻れないのに。
この気持ちから逃れられない。
貴方の憎悪に、貴方が他の方に向ける愛情だけでも辛いのに、自分の想いにも苦しめられる。
想像していたよりも遥かにきつい。
罰だと、償いだと言い聞かせても、堪え難いいたみ。
「‥‥ふ、ぅっ、‥き‥‥‥」
心の傷で人を殺せるなら、殺してほしい。
どうか、殺して。
堪えていく自信が、失くなりました。
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