憧憬之華
□拾壱
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《憧憬之華・拾壱》
家に決められ嫁ぐ。
それこそが貴族に生まれた者の義務。
自由など在りはしない。
想う方がいても、自由を持たない身では添い遂げることはできない。
不自由な身を歎いたこともある。
けれど自分を護ることすら知らなかったわたくしが、自由が欲しいと考えることそのものが滑稽なのだと気づいた。
護られることに慣れ、自分でたたかおうとも思わなかった。
争い事は嫌い、嘘は嫌い。
その言葉で逃げていた。
四年前、もし、あのままキラに逆らえずに宮廷に入っていたら。
わたくしは宮廷に馴染めなかっただろう。
彼もそのことを咎めるような方ではない。
如何なる時も、わたくしをまもってくれただろう。
宮廷で生き延びる力も無い。
屋敷に残ってもキラの害にしかならない。
あの時のわたくしには、どのみち彼以外の男性に嫁ぐ道しか残されていなかった。
護られるだけの女に、選択肢など無い。
流されるままに生きるしかないのだ。
『――ラクス、お前はもう自由だ』
あの日。
夫なったあの方に離縁を申し渡された時。
わたくしは泣きたくなった。
もう、護られるだけの女ではなくなったのだと、泣きたくなった。
『――これからは自由に、お前が思うように生きろ』
流されるままに、意志を押し通す思いも力もなかったわたくし。
四年という月日が、結婚生活が、狭い世界の中でしか生きる術を知らなかったわたくしを掬い上げた。
広い世界を見せられ、そこで生きていく強さと、頑張り続ける心を貰った。
自由になった心が求めたこと。
それは、ずっと求めていたこと。
どんな形でもいいから。
――貴方の傍にいたい。
遠く離れた蓬蓮の地で思い知った。
心も離れ、身体も離れている、ということがどんなに辛いか。
今更赦してほしいなどと思わない。
ただ近くで見守りたい。
貴方が幸せになるのを見届けたい。
空を眺めて幸福を祈るのではなく、自分の目で直接。
できることなら、その手伝いもしたいと思った。
キラの愛する方を支え、二人が幸せになっていく姿を見つめていたい。
そんな資格すらもないと、詰られてもいいから。
どんなに辛くとも構わない。
自由を手に入れた心が、貴方の傍にいたいと叫ぶから。
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