憧憬之華

□拾壱
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「――少しでも困ったことがあったら正直に言うんだよ」



「――肌が荒れてるね。後で何か届けさせるから手入れはきちんとするんだよ」




「はい。ありがとうございます、シオン、リオン兄さ…」









優しい兄たちに礼を言おうとしたその時だった。




パキリ、と渇いた音がその場に響いたのは。





誰も来ない時間帯を選んだというのに、高官服を身に纏った両兄様に挟まれた女官というのは悪目立ちし過ぎる。




口止めをした所で、一瞬で広まってしまうのが後宮だ。誰其の醜聞を求める後宮に、この事が広がればクライン宗家との関係を勘繰る者も出てくるだろう。





最悪、皇帝の耳にも入ってしまうかもしれない。






まだ勤め始め少ししか経っていないのに。




まだ目的を果たせていないのに。






クライン宗家の娘という事実が知れたらきっと両兄様はわたくしの意見を聞いて下さらない。レオンお兄様も黙っていない。






――宮廷に、いられない。







冷えた心でわたくしは音が鳴った方を見た。











「……イザーク様、?」







しかしそこにいたのはまったく予想していなかった人だった。







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