憧憬之華
□拾壱
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「…兄様方。わたくしは自分で選んで、ここにいますの」
四年前。
お父様と両兄様がいなかったらわたくしは宮廷に入宮していただろう。
自分の意志ではなく。
キラの願いを断れずに、流されるままに。
「わたくしが、はじめて自分で決めて、やり通そうと思ったことです。兄様方がご心配して下さるのは嬉しいですが、……どうか、反対なさらないで」
「「うぅッッ!!!」」
「‥大好きな兄様方が……反対なさると、わた、わたくし、悲しくてっ」
「「ラクスッッ!!!」」
むぎゅうと左右同時に抱き着かれほお擦りされる。
ごめんねごめんねと、謝罪を口にしながら、両兄様が諦めていないことぐらい解る。
でも今だけは、逃げることができるから。
わたくしが傷つくだけの理由なら、両兄様はここまで反対しなかっただろう。
心に傷を負うだけではないのが宮廷であり後宮とご存知だから、わたくしを家に戻したがる。
ただでさえ後宮は危険な場所だ。
加えて、わたくしはクライン宗家の娘。
クライン宗家は今、新皇帝に粛清された数ある貴族に怨まれている。
クライン宗家の娘が宮使えをする可能性など有り得ないという理由で、分家筋の娘と思われているから今まで無事だった。
もしクライン宗家の娘と露見してしまえば、命が狙われてもおかしくない。
後宮の一女官が変死してもさして問題にならない。
クラインの屋敷でなら安全は保障されている。
しかしただの新人女官では保障など何処にもない。
護衛をつける身分でもないのだから、きっと簡単に殺されてしまう。
だからこそ暗殺の危険が濃厚な宮廷に入るのを、女官長に止められたのだ。
それでも諦めるつもりはなかった。
これからはわたくしが決めて、そしてやり通していく。
皇帝自ら追い出されるか、側室さまから追い出される、どちらかでしか、わたくしは宮廷を出ないと決めたのだ。
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