憧憬之華
□玖
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「本日より薔薇姫さまにお仕えすることになったラクス・クラインと申します。誠心誠意勤めさせていただきます」
女官長から申し渡された配属先は、後宮の薔薇宮、側室薔薇姫の元だった。
正式な女官として真新しい女官服を身に纏ったラクスは跪づき、主となった薔薇姫に、礼を尽くした。
「よろしくね、ラクス。貴女のことは女官長からも聞いております。優秀な貴女が私の元に来てくれて嬉しいわ」
ラクスは顔を上げ、仕えることとなった薔薇姫の姿を見つめた。
淡い緋の髪は、薔薇姫と呼ばれるだけに、朝露に濡れる薔薇の華を連想させるほど艶やかで美しい。
翡翠の瞳は優しげな光りを込めてあるのだと錯覚するほど柔らかく、それでいて貴族の姫としての誇りをも持ち合わせている。
世間知らずの貴族令嬢であったラクスが持ち合わせていなかった強さ。
後宮で生き抜く強さを持った美しい姫だと、一目見ただけでラクスは感じた。
「……光栄でございます、薔薇姫さま」
現在、皇后に最も近いとされる姫に、ラクスは微笑んだ。
愛した彼が一番寵愛している美姫に仕えることを偏に望んできた。
望みが叶い嬉しいのに、どこか傷む心を無視して、ラクスは微笑んだ。
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