憧憬之華
□玖
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歎くのが女官だけだったなら、まだ頷けた。
しかしキラとて歎いているのだ。
イザークはそのことも知っていた。
面影を追い求め、その違いを思い知り、絶望する。その繰り返し。
皇帝としての激務に追われ、安らぐべきである時さえも自らを追い詰める。
このままではいつか決壊してしまう。
イザークはそのことを恐れていた。
だから、頷けない。
彼女は彼女であり、他を探しても彼女が埋めていた心は埋まるはずがない。
聡明である主がこのことに気づいていないはずがない。
そして、彼女のような女が二人としていないことも。
「その者を見つけたとして、いったいどうなさるおつもりです」
「お前には関係ないっ」
「陛下っ」
「二度も言わせるな。これは命令だ!」
キラは苦しげに言った。
イザークの思いの全てを理解していても、追い求める心を止められない。
彼女を憎み、桜を憎み、忘れたいと願い続けていても止められない。
矛盾する想い。
憎しみが上回っていることが多いが、ひょんなことからそれは逆転する。
少しでも彼女に似ている者を近くに置いて、彼女に触れていると錯覚していたくなる。
その衝動は彼女を思い出した時に、よく沸き起こる。
だから桜が咲き乱れるこの季節、淡い緋髪を持つ側室の元に多く通う。
愛しく憎く想う相手は、この世に二人といない珍しい髪色を持っているため、一番近い緋い髪の側室を女官を抱く。
抱いた後に待つ虚無を知りながら、失った温もりを望み求めてしまう。
――四年。
四年という間、キラはその繰り返しだった。
何度絶望しても、その衝動は沸き上がる。
彼女は既に人妻で、遠い蓬蓮の地にいると分かっていても。
愛していた分だけ憎い。
憎しみが増せば、愛は深まる。
連鎖は止まらない。
愚かな事だと分かっていても。
耳に届いた柔らかな唄。
彼女を連想させるほど似ている声を持つ女なら、この断ち切れない連鎖から解放してくれるかもしれない。
そんなことができる女など存在しないと嫌でも思い知った四年間だったが、キラは希望を捨てられなかった。
いつか本当に忘れさせてくれるかもしれない。愛せるかもしれない者を求めている。
「――行け」
「…っ、御意」
恋しい、憎い、愛おしい、憎い、逢いたい、憎い、触れたい、憎い。
裏切り者と罵り続けても、恋い慕う気持ちは消えうせない。
胸を甘く切なく締め付ける想いと、ずたずたに踏みにじり刔り続ける想い。
辛い、苦しい。
僕はもうどうすればいいの。
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