憧憬之華
□玖
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「…もう、ここまででいい。お前たちは周辺を見て来て」
キラはイザークに否定されても食い下がらなかった。供として着いてきた侍官と武官にそう告げる。
「陛下っ!」
今でも心を占める彼女を忘れたいと願っているキラの胸の内を知るからこそ、イザークは否定した。
――それなのに。
「イザーク。君ももういい。だからっ」
信頼されていると、イザークは常日頃より感じている。今この時でさえ。
彼女の唄に似ている女を探させに行くくらい、信頼を得ていると。
「唄を謡っている者を探して」
忘れたいと願いながらも、面影を追い求めてしまう主。少しでも似通った所があれば側に召し上げ、違いに絶望して追い返すことばかりを繰り返す。
緋い髪をした女官に手を出すのも、淡い緋の髪をした側室の宮へ他より多く通うのも、全て薄紅の桜の髪を持った彼女を忘れられないが故。
「陛下、どうなさるおつもりです」
自分には聴こえない唄の謡い手を探させていったいどうするのか。
いつものように側に召し上げ、一度だけ抱いて宮廷から追い出すつもりなのか。
イザークは胸の内で広がる疑問を口にしないかわりに、目力に込めた。
抱かれる女官も、抱いたキラも、傷つくことになるかもしれない。
一時の寵愛を受けてもそれ以上は決して有りはしないことに歎く女官を何人も見てきたイザークは、乞われたとしても直ぐに頷けなかった。
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