憧憬之華
□肆
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――しかし、どうしても受け入れられない者がいた。
それが前宰相が溺愛する一人娘、ラクス・クラインだった。
義母たちにより、僕は極度の女性不信にあったようで、使用人の女はまだマシだったが、側室になれるような身分の女、つまりは貴族の女が受け入れられない人種だった。
近くにいるのも最初は堪えられなかった。
僕は彼女に対して露骨な態度で近づけさせようとしなかったのに、彼女は何度も何度も諦めず近くに寄って来た。
目が合えば必ず笑いかけてくる彼女。
笑顔こそが女の怖い顔。
女は笑顔の裏に欲望を打算を隠す化け物。
いくら優しげで愛らしく映っても、女の笑顔は信じてはならない。
彼女に冷たく当たることに前宰相は何も言わなかった。
しかし彼女の兄、三つ子たちは違った。
僕より5つも年上で、彼女とは7つ違う三つ子たちは、歳の離れた妹を父である前宰相にも負けず劣らずの勢いで溺愛し、大切に護っていた。
僕が彼女に辛く当たれば、そっくりな顔で僕を取り囲み、そっくりな声で僕を責める。
言い返す隙を与えず拍子よく話されるだけで頭がぐるぐるし目眩を感じた。
誰が喋っているのか、時々解らなくなるほど息ピッタリの三つ子との言い合いに勝てた試しはない。
『――俺たちの妹に何て態度を!』
『――俺たちの妹を虐めるな!』
『――俺たちの妹は可愛い!』
『『『俺たちの妹をそこら辺の強欲女と一緒にするな!!!』』』
右から、前から、左から。
矢継ぎ早に言われ頭痛を感じるほどだった。
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