月無夜
□月無夜
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「え、これから?」
クライン財閥の仕事関係で結局自分を残し早退してしまったラクスからの電話に応えたキラは、その内容に驚いた。
滅多ないことに胸がドキドキしてしまう。
〔ええ。今日はキラも非番でしょう?もう少し仕事があるので、お夕飯、作る時間がなさそうなのです〕
「うん」
〔ですから、外食しましませんか?ルームサービスもいい加減飽きましたし、どうせなら違うホテルのレストランに参りましょう〕
「‥‥それ、って、デート?」
同棲しているので、考えてみればデートというものがしたことのない。
浮足立つ心は押さえれても、声は上擦ってしまう。
〔‥デート、ですか〕
「違うの?」
〔デート、という響きは、何か恥ずかしいものですわね〕
クスリと携帯越しからラクスの笑い声が聞こえ、キラもつられて笑ってしまう。
二人してクスクスと笑う姿、他から見れば酷く滑稽にうつるだろう。
しかしキラにはそれが幸せだった。
〔じゃ、行きたい所の住所送っといて〕
「――はい、キラ」
残り少ない幸せに浸らせてほしいのに。
「‥‥ごめんなさい」
それすらも赦されないのですね。
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