月無夜

□月無夜
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『お久しぶりです、ミーア様』





『ニコルっ』










姿形も声も、その優しい微笑みも、昔と変わらない彼。






死んだとされた、アマルフィ家最期の当主。














『あ、んたっ、何で生き‥て!』








ニコル・アマルフィという人間は五年前に死に、アマルフィ家は退魔家から消えた。





死体一つ残さない家のため、正確な生死確認が成されたわけではないが、アマルフィの家に残された大量の血痕が死を示した。











けれど、生きていた。














『僕は死ねないんですよ、ミーア様』





『?!』





『死ねないんですよ、どうやっても』









ニッコリと変わらない微笑みを浮かべるニコルに、怒りで熱くなった血が冷えていく感覚がし、ミーアは押し黙った。







冗談だと笑い飛ばしたい内容なのに、その2文字の単語が喉から発せない。












『毒を飲んでも、頸動脈を切っても、結構死ぬかもしれないって方法を試したんですけど、死ねなくて。可笑しいですよね?』





『な、に言っ‥て』





『だから死ぬのやめました!父さんも母さんも僕を殺したくて仕方ないみたいだったんですけど、死ぬのやめたんで、僕が殺したんです』











笑顔で語られる内容ではなかった。




しかし歪みない完璧な笑顔で続けるニコルに、ミーアは怖くなった。








もう普通じゃない。



狂気、と名付けても良い、ニコルのそれ。




優しかった彼を変えてしまったそれ。















『痛いって言っても止めてくれないし、最終的には僕を解体しようとしてたんですよ?酷いですよね?死ねなくても痛覚はあるんですよ。だからぷっつんしちゃって』






歳が近いからと幼い時に遊び相手としてクライン家に来ていたニコルを知るミーアは、彼が怒ったところを見たことがない。






ラクスは大人しいのでニコルを困らせることはなかったが、ミーアは違った。










自分たちの服を着せたり、無理難題を吹っ掛けたり。









宗主家の、クライン家の巫女姫であるミーアに逆らえる者など、父親ぐらいしかいない。









幼くして四神の朱雀を片翼とはいえ召喚できるミーアやラクスは、退魔一族の子どもとはいえ異質の存在。









家柄と力が、彼女たちから人間を遠ざけた。









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