月無夜

□月無夜
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『離れな‥っあぅ?!!』







慌てて踵を返そうとしたミーアは、突然身体に走った痛みに脚を動かせなくなった。





前に出ていた身体はそのまバランスを失い、固い土の上に落ちる。














『ッ』










ドサリとその場に倒れたミーアは、鈍い痛みに眉を寄せた。その痛みは次第にビシビシと強さを増し、歯を食いしばっていなければ悲鳴を上げてしまいそうになる。
















『っ‥やっ、ぱ…り』










“罠”に嵌まった。





その考えが頭に過ぎる。





カテゴリーAの仕業なのか、生き残りの仕業なのか判断つかないが、墓の仕掛けが生きているということは、彼の一族がまだ滅びていないことを意味しているのだ。















『あうぅ…ッく』






死体を残さないから、はっきりとした生死の確認ができない一族。





しかし死体を残さないのは後世に力を残すためだからと謂われているのだ。







墓石が点々と置かれているのも、術の一つ。















『し、朱、と…う……っ!!』








動けなくなったのは“術墓”にとっての部外者だから。




ならばその術を、解くしかない。



墓を破壊し、術を解く。












『焼き払――』











片翼の朱雀を召喚し術のかかった墓を焼き払おうとしたミーアは、突然現れた蝶に唇を押さえられ最後まで言葉を紡げなかった。








エメラルドグリーンに輝く、息を呑むほど美しい蝶。














『そんなこと、しないで下さい』





誰もいないのに、鼓膜を震わした声。








『だ…っ?!』











誰、と叫ぶ前に、ブワッと無数の蝶が湧いて出た。




月だけが浮かぶ暗闇の中で、夥しいほどのエメラルドグリーンの蝶たちが幻想的な明かりを浮かび上がらせる。








術を施した墓に、虫。







その特徴は正しく彼の家の特徴。













『ッ、悪趣味だわ!とっとと姿を見せなさいよっ!!』









怒気を孕んだミーアの声に、ただ飛んでいるだけの蝶は人型に集まった。









そして、それは、ヒトになった。














『……生きて、いたの?』












顕れた顔に、ミーアはぽつりと呟いた。







エメラルドグリーンの髪を持った少年は、穏和な笑みを浮かべる。










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