月無夜
□月無夜
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第十四夜《想ノ夜》
「あと、…ひとつ〜」
軽やかに鼻唄を歌いながらミーアは街中を歩いていた。
夜でも明るい街を縦横無尽に歩き回り始めて一時間、だいぶ身体も温かくなった。
「ついて来たわね」
回りの気配を注意深く伺えば、殺気を持った団体が一定の感覚でついて来ることに気づき、ミーアは薄く笑みを浮かべた。
「ふふっ」
鈴を転がしたような笑い声は、誰の耳にもとまらない。
ミーアはフラッと路地裏に入り込み、直ぐさま地面を蹴りビルの上に飛び上がった。ビルの屋上から、路地裏にぞろぞろと流れ込んできた“獲物”を、声を上げて数える。
賑やかな街中と違い一つ奥に入った路地裏は、暗くじめじめとしているし、また驚くほど静かだった。
「じゅうきゅう、にじゅう、にじゅういち…………にじゅうさん?!少なすぎじゃない?」
甲高い声は路地裏に響き渡り、“獲物”はいっせいに空を見上げた。
控え目な殺気が、ザワっと背筋が凍るような殺気に一瞬にして変わる。
ピリピリと刺すような殺気に包まれてもミーアは笑みを絶やすことはなかった。
しかし、それも月の逆光で“獲物”たちには見えない。
「――足りないわ。場所を指定してあげるから、そこへいらっしゃい?“視力”が無くても相手がアタシならあんた達でも闘えるでしょう?」
赤い月を背負った少女は、嗤う。
「さぁ、殺し合いましょう?ドミニオンの飼い犬野郎ども」
長い髪を風に弄ばれながら、嗤う。
「……ふふ、ふふッ」
美しい少女は、愉しそうに、嗤う。
狂気を孕んだ声に、“獲物”たちの精神はじわじわと蝕まれていく。
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