絶対零ド
□絶対零ド
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第二十四話―婚礼―
キラは報告書に黙々と目を走らせていた。
「……これだけ?」
キラの問いに報告をしに来ていた近衛の諜報兵はピンと背筋を伸ばした。
「はっ!昨日までの報告は以上です、殿下」
机の端を叩きながらつまらなそうに報告書に目を落とすキラに、兵士は緊張していた。何か不手際があったのかと、必死で思考を巡らすがそんな覚えはない。
コツコツと静かに響く音にビクビクしながら、兵士は主人の言葉を待った。
「――まあ、いいや。これからも監視は続けて」
「はっ!!」
執務室から出ていく兵士を見送ってから、キラはまた報告書に目を落とす。キラは不自然さが一つもない報告書が気に入らなかった。
「…エピリア、十貴族、アスカ」
バラバラのピースが目の前に広がっているようだった。和平駐在大使として三ヶ月前から皇宮に滞在しているシン・アスカの行動は、大使として当たり前なことばかりで不審なモノは見られないという定期報告。
彼が大使としてしっかり役目を果たしているお陰で、エピリアとの和平は着々と進んでいる。
しかしシン・アスカは大使の役目をただ果たすような男ではない。
僕の第六感がそう告げていた。
彼は危険だと。
ただの大貴族ではない。
野心と冷酷を合わせ持つ朱紅の双眸。
貴族らしい優雅さと、軍人のような身のこなし。
自国にいるような貴族の令息とは違う彼。
そして十貴族が大使の役目を担うのは少し可笑しかった。
たしかに人質として身分の高い貴族を差し出すのはよくあること。
けれど今回ばかりは身分が高すぎる。
十貴族は王家に次ぐ家柄で、易々と他国に渡せるはずもない。
それなのに、だ。
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