あんだー

□蜜月の夜、星に願いをT
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《蜜月の夜、星に願いをT》











「今日は、どうなさいますの?」





ラクスは恋人が食べ終わった皿を洗いながら、背後にいる彼に問い掛けた。









「‥‥うー、ん」







夕食を終えた彼女の恋人、キラは、ラクスの最近の愛読書である本をペラペラとめくりながら曖昧な返事をした。










「……キラ?」






皿を洗い終え、濡れた手を布で拭きながら、ラクスは恋人の元まで歩み寄る。




眉を顰め、自分の愛読書をみるキラに、彼女は首を傾げた。










「聞いてます?」




「聞いてる、けど、…ラクス、こんなの読んで楽しい?」







パタンと閉じられた分厚い農学の専門書を、ラクスは胸に抱き、訝しい顔付きの恋人にニッコリと微笑んだ。













「ええ、とっても。畑のためにも参考になりますわ」




「これはちょっと難しすぎて、実践向きじゃないと思うけどね」







自給自足用の畑には少し難しすぎる内容な本を抱える愛らしい恋人に、キラは破顔した。



足を踏み入れたら生きて戻れない、という曰く付きの森の小屋で一人住んでいる恋人の本の趣味は少し変わっている。






各国の語学書から始まり、神学、歴史、経済、政治、農学、薬学、数理学、法学、文学、等など。




まるで一貫性がなく、どれも学者が読むような専門書ばかりなのだ。







驚くことに、全て理解しているという恋人に、キラは最初とても驚かされた。





読むだけでも根気がいるのに、理解しているとなれば驚くのも無理はない。








確かに恋人が賢いことをキラはよく解っていた。ちょっとしたことで、彼女の叡智を垣間見ることができる。









自分の恋人は賢い。





森小屋にいるのは勿体ないくらいに、賢い。












「――それより!わたくしの質問に応えて下さいな。今夜はどうなさいますの?」






頼もしいくらいに賢いのだ。



しかし、賢く美しい恋人にも、理解できないものがあった。










「お帰りに、なってしまいますの?」




「………………」









それは微妙な男心というヤツだった。









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