NO NAME

□T-Z
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二人の涙はラクスの奇行によりすっかり止まっていた。二人はキラに頻りに頭を下げた。











「ああ、シン。………二度は、ないよ?」






シンは下げていた頭を勢いよく上げた。





いつも微笑みを浮かべているキラの顔が厳しく引き締まっている。






その言葉の意味を噛み締めたシンは、ギュッと目をつぶる。















「………はいっ」








シンの返事に、厳しく引き締まっていたキラの表情が和らいだ。















「気をつけてね」








三人は門に向かって歩き出した。しかし、途中でルナマリアだけが戻って来る。















「………どうしたの?」









首を傾げるキラに、ルナマリアは戸惑うように瞳を揺らすが意を決し彼と目を合わせた。














「――私、剣術大会で見た貴方に憧れて、警備隊に入隊しました!いずれは騎士になりたいと思っています!」









ルナマリアの言葉に、キラは一瞬目を丸めたが、やがて優しく微笑むと頷く。











「頑張って。女騎士は聖女様をお守りする機会もあるしね」






「はいっ!聖女様をお守りできるように頑張ります」






「君ならきっとなれるよ」









キラの言葉にルナマリアの瞳は輝いた。










“あの”キラ・ヒビキに言われれば、今は果てしない夢でも、いつかは現実になる気もした。














「………あ、の、キラ様は何故、騎士団をお辞めに?ご復帰なさらないのですか?」






「うん。戻らない」






「何故!貴方はっ」






「君は僕の妻をどう思う?」










ルナマリアの言葉をキラは遮った。



ルナマリアはまさかそんなえぐい質問をしてくるとは思ってもみなかった。













なんせ、あの、妻、だ。








ルナマリアは有名な噂を耳にしている。












“ヒビキさんちの、ラクスちゃん”といえば、超絶美少女だが残念な中身が際立ち声が掛けられない有名人。ルナマリアは憧れの人物の妻がそんなはず、という思いが拭えなかった。










しかし今日、目の当たりにした。








部屋に入って来た時は、噂に違わぬ超絶美少女だと納得した。









そしてその数秒後に、超絶美少女に続く噂も真実だと知った。











虫も殺さぬ可憐な容姿で、右腕一本置いていけと言い放った。









ソファに座っていなかったら、きっと腰を抜かしていたに違いなかった。

















「どう思う?」







「…………ぇ、と、‥‥個性、的です」











ルナマリアは言葉を精一杯選んだ。あんな過激で暴力的な妻を側に置く理由は一つしか思い付かないため、できるだけ、できるだけ障らない言葉を選んだつもりだ。















「――可愛い、でしょ?」







「は、はぁ、確かに」











そう、側に置く理由なんて、ルナマリアには“愛しているから”という理由しか思い付かなかった。



残念な性格が目に入らないほど、“愛しているから”だと。











容姿はとんでもない美少女なのだ。ルナマリアもそこは否定せず、頷く。














「ラクスは本当に可愛いんだよねぇ。だから片時も離れたくない。騎士だと城にいることが多くて、心配で心配で仕事にならない。僕がいないと誰かに持っていかれちゃうよ。だってあんなに可愛いんだよ?危険でしょ?だから、ひとりになんかしておけないんだ」












むしろ貴方の妻が危険では?という言葉をルナマリアは飲み込んだ。超愛妻家なキラに言ってはならないと思った。
















「じゃあ、僕は妻の所に行くね?多分すっごく拗ねてると思うから。ああ、本当に可愛いなぁ僕の奥さん。じゃあ、さようなら」














バタンと閉められたドアをルナマリアは呆然と見つめた。












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