NO NAME
□T-Z
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「どうか、お願いします。本当にもう時間がっ!マユを助けて下さいッ」
「もう、止しなさい」
シンが床に頭を擦りつけようとした時だった。
ケリーは立ち上がり、キラに深々と頭を下げる。
「この度は真に申し訳ございませんでした。ルナマリアちゃんも、ごめんなさいね」
「母さんっ?!」
「おばさんっ」
どうやら顔見知りなのかルナマリアはケリーの顔を悲しそうに見つめる。
「何言ってんだよ母さんっ!!マユがっ、マユがっ!!」
諦めるのか、とシンは母親に縋り付く。
大事な妹の生命に関わることを、投げ出すのかと絶望する。
必死のシンに、ケリーは首を横に振った。
「………もうマユは、助からないのよ」
「……か、あさん」
「もう、手遅れなのよ」
か細い声に、シンは目を見開いた。
「さあ、行きましょう」
ケリーはシンの手を取る。
母親の言った事にシンは目の前が真っ暗になった。お金さえあれば、治療費さえあれば、妹は助かるはずだったのだ。
だから盗っ人まで働いたというのに、その妹は手遅れだと言う。
たった一人の妹の死、という未来が目の前にあるようで、息もできなくなった。
「キラ様。後生でございます。息子の罪はどうか私に。どんなご処分も、甘んじてお受け致します」
ケリーはキラに深々と頭を下げた。
「ルナマリアちゃん行きましょう」
「……はい」
ルナマリアは小さく答えるとシンの身体を支え、キラに頭を下げる。
「それでは我々は失礼します」
「はい。ありがとうございました。この度は落とし物を届けて下さって」
ニッコリとキラは微笑む。
「……あ、の」
キラの言葉にルナマリアは目を見開いた。
「どこに落としたかわからなくて困ってたんだ。シン君が拾ってくれたんだね。どうもありがとう」
「‥‥お、お、れっ」
ルナマリアはキラをじっと見つめた。
キラはニコニコと笑顔でいるが、その瞳は笑っていない。真意を悟ったルナマリアは、姿勢を正した。
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