月無夜
□月無夜
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彼の寂しげな声に白虎はアスランを心配しているかのように喉を鳴らした。
グルルと喉を鳴らしながらアスランに頭を擦り寄せる。
「……お前は、あの男が好きなんだな。俺が好きじゃないのに、相変わらず酷い」
忌ま忌ましげに呟く主人に、白虎はただ猫のように甘えた。
「――お前も、逢いたいよな。……俺もだよ」
憎らしくて、疎ましくて、鬱陶しくてどうしようもない。
でもそれでも、離れていると寂しくて仕方ない。
「“嫌い”じゃないなら、赦してくれるかな」
暖かい白虎に寄り添いながら、アスランは重たくなってきた瞼に逆らおうとしなかった。
彼は“夢”が好きだった。
「……今、から、‥聞、いてみるよ」
重たくなった腕を持ち上げ、残り少ない魔力を使い目の前にルーンを刻む。
「…夢なら、…また、出逢え‥るか、ら」
アークエンジェルに入り率先して怨霊退治に駆り出ている今、アスランの魔力は使われ続けていた。
魔力を使いすぎれば、身体が眠りを訴える。
自分自身の身に合った魔力を、考えながら使わなければ永遠に目覚めることのない深い眠りに落ちてしまう。
アスランは自分の限界を見極めながら戦い、夢を見る魔力だけを残していた。
見たい夢を見るためのルーンを刻むとアスランは完全に瞼を閉じ、持ち上がっていた腕が白虎の上に落ちる。
悲しい闇が覆いかぶさって身動きが取れなくなる前に、アスランは眠りにつく。
闇に魅入られる前に、さっさとトンズラをするのだ。
そうしなければ、壊れてしまうから。
壊れてしまったら、逢えなくなってしまうのを彼は知っているのだ。
アスランは再び出逢うのを待っている。
人間としての感情が出てしまうヒトと、また巡り逢えるのをただひたすら待って、待ち焦がれて。
我慢できなくなったアスランは、イギリスを、生家を離れて汚れの渦中にやって来た。
四神が集う異国の地に。
イギリスの地に関係のない白虎が召喚された一年前の赤い月の晩、アスランは大事なモノを失ってしまった。
白虎と引き換えに失ってしまったモノを取り戻すために。
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