絶対零ド
□絶対零ド
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「………ッ」
仕事を取り上げられ、寝室に放り込まれ、大人しく寝台に横になってみたもののラクスは眠れなかった。
何度も寝返りを打ちながら、頭の中から勝手に入り込んでくる内容を追い払おうとする。
独り森小屋で暮らしていた時、恐怖や不安に襲われ落ち着けないでいるとラクスはきまって皇玉を握り締めた。
皇は孤独なもの。
母の口癖を思い出しながら、必死に堪えた。
皇への道だからと、皇玉にそれらの感情を吸い取ってもらった。
だが、今その皇玉は、奪われてしまった。
ラクスは弱音を吐きはじめた自分に嫌気がさした。
重たい溜め息しか出てこない。
「…………、……っ」
ラクスは起き上がるとローブに手を伸ばした。
○●○●○
こっそりと離宮を抜け出したラクスは目立つ髪をフードの中に隠し、皇宮庭師自慢の庭園に足を踏み入れていた。
庭園といっても広い敷地面積であり、ちょっとした林もあったりする。少しでも頭を落ち着ける為に、ラクスは森小屋に近い状態にあろうと考えた。
また庭園は、亡き母のお気に入りの場所でもあったと聞いていた。
自然をこよなく愛していたという母ジュリアナ。
豪華絢爛たる部屋で本や刺繍といったものは好まず、庭園に来ては木に登ったり水遊びをしていたという。
ジュリアナの話によくお気に入りの庭園が出てきたことを覚えていたラクスは、一度訪れてみたいと入宮前から思っていたのだ。
夜中に、しかも護衛の一人も連れないで、狙われやすいこんな場所を訪れるのは皇女の行動ではないとわかっている。
けれど、ラクスにはそれが必要だった。
眠る休息ではない、違う休息が必要だった。
ラクスは大木の下に腰掛け、夜昊を見上げる。
森の昊には敵わないけれど、星が輝いていた。冷たい空気と植物の香りに心が落ちついていく。
草の上に寝転んだラクスは、重たくなった瞼をゆっくりと閉じる。
草の上ならば久しぶりに穏やかな眠りにつけると思った。
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