月無夜
□月無夜
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『――きっと、解放して差し上げますわ』
いつの間にか、お姉様と同じ“特別”になっていた貴方。
血生臭い運命から、解放されて、お二人が幸せになって下されば、わたくしはどうなっても構わないのです。
『……今は、お休みくだ…?!‥‥‥っぃ、‥!』
泣き疲れ、固く瞳を閉ざしたキラを優しく見守っていたラクスだったが、突如として襲った痛みに眉を歪め、目を見開いた。
身が引き裂かれそうになる痛みに、身体が小刻みに痙攣し、意識が消えていきそうになる。
どこかに傷を追っているわけでもないのに、痛みは酷くなり、ラクスはキラの隣に転がった。
『………ッ、ぁ‥‥!!!』
銃で撃たれた時以上の痛み。
ラクスは意識を必死で保ち、痛みの中心である腹に手を運ぶ。
『…な、‥‥ぜ、っ』
お腹をまさぐるもやはり傷などなにもない。無傷だった。
しかし痛みは腹中から沸き上がるようにして、ずっと在り続ける。
『っ……ごっ…‥が?!』
腹の痛みに続き、今度は、喉の奥から生暖かい液体が込み上げる。
ラクスは我慢できずにその場に吐血してしまった。
口が泉になったかのように、次から次へと血が沸き上がる。
ラクスの白い巫女装束やキラの装束が彼女の赤い血の色に染まっていく。
『……ぁ‥、っぅ…けほ!!』
ナニかが腹を蹴破ろうとする痛みと、四肢にナニか生暖かいモノが絡み付く感触に、ラクスの瞳が絶望に染まった。
訳のわからない痛みに、絶命を感じた瞬間だった。
まだ何もできていない自分の無力さに、絶望したのだ。
戦いを強いる大嫌いなこの世界で見つけた大切な“特別”を守ることもできず、死んでいくことしかできない弱い自分が嫌になった。
『……ぅ、‥ょ、わ…』
守りたい方たちがいるのに。
大切な“特別”な方たちが、二人もいるのに。
何もできずに死んでいくの?
やっと、生まれてきた意味を見つけることができたのに。
このまま、何もできずに?
『―――‥‥ッ』
力が欲しい。
大切なお二人を守るのに必要な、力が。それがわたくし自身を滅ぼす、最凶にして最悪の力でも、わたくしの望みを叶えてくれるなら何でもいい。
大切な人が、救われるのなら、幸せでいてくれるのなら、何も文句はありませんわ。
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