月無夜

□月無夜
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『キラ、こちらへ』











『ラクス?』













ラクスはキラの手を引き、儀式場から人気のない部屋に移る。

















『……どうしたの?』








『わたくしは、……わたくしにこのようなことを言う資格はないのでしょうが』

















わたくしは貴方にとって、何でもない存在です。










貴方はお姉様の婚約者。








わたくしは、お姉様の妹。

















でも、今は。










今だけは。





















『…ラクス?』












こんなことを感じるのは、おかしいのに。









こんなことを想っては、駄目なのに。





















『――泣きたいのなら、我慢なさらないで』

















放って置けないないのは、何故。














貴方は、お姉様ではないのに。


















『……そして、わたくしは、貴方の涙を拭いましょう』












本当に不思議。











わたくしはお姉様だけさえいて下されば、よかったのに。












他の人間なんて、どうでもよかったのに。




















『貴方は今、傷ついていますわ。だからどうか我慢なさらないで』










『な、に‥言っ、て』










『――我慢なさらないで』












ラクスの言葉を耳にし、笑顔の裏に必死で隠していた涙が紫の瞳からこぼれ落ちた。



















『……っ、ぅ――ご、め』












『――泣いて、下さいな』












声がつまり上手く喋れないキラは、やがて床に手をついた。











大粒の涙が床にいくつも落ち、溜まっていく。


















『………ヅ‥くっ、!!』












ラクスは跪づき、震えるキラの背を優しく撫でた。






















『――優しい貴方には、酷なことですわね』
















たくさんの大切のモノを失っても、哀しむ暇なく、戦い続けなくてはならない運命(さだめ)。













退魔一族に生まれ、ヒビキの宝剣である龍飛の運命の契約者に選ばれてしまった。





この世界に汚れがある限り、わたくしたちは戦わなくてはならないのが世の理。







汚れは、どこにでも生まれるのも、また理。















生まれ続ける汚れを滅し、世界を保たなくてはならない。
















強い力を持つ責任として、わたくしたちは最前線にいなくてはならない。













わたくしはこの理を壊したい。















わたくしは、お姉様の為だけにこの理を壊すためにまだこの世界に在るのだとばかり思っていた。

















でも、それは、きっと、違う。














お姉様の為だけじゃない。















貴方の為にも、わたくしはこの理を壊す手立てを見つけましょう。














ないのなら、せめて、お姉様や貴方の身代わりに、わたくしがなってみせる。


















いまだ片翼の朱雀すら召喚できないわたくしに、何ができるのか、知れない。











でも、死んでもおかしくなかったわたくしが、こうして生き長らえているのには理由が在るのだ。
















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