月無夜

□月無夜
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白い陰陽服を身に纏ったキラは、結界の中で、龍飛と向き合っていた。





龍飛継承の儀式は48時間を要する。
















継承者は48時間、龍飛に向き合い、契約の時を待つ。












結界の傍らにはクライン家の巫女装束を纏ったラクスが鎮座し、儀式を見守る。













儀式場は東西南北に火が焚かれ、48時間絶えることはない。























『――契約の時が来ました』










時計を見ることもなく、ラクスは立ち上がった。










シャランと巫女装束の金属の飾りが音を成す。










ラクスは結界の結びを解くと、封印を受けた龍飛を手にとった。













それをキラが頭を垂らしながら跪づいて受け取る。

















キラは封印された龍飛を鞘から抜くと、高く持ち上げた。

























『古しえより、ヒビキを守る、水を統べ、天翔ける龍よ』












神儀に用いる羽扇が龍飛の刃先を滑る。












『血の契約に従い、契約者を守り賜え』


















羽扇が滑り終えると、キラは刀の刃先が内側になるように持ち替えた。


















『――古しえより、我が一族を守る、水を統べ、天翔ける龍よ』















キラは詞を詠むにつれ、左手の掌を刃先に合わせる。






















『血の契約に従い、我が血を捧げる――』


















左手を刃に押し付け、ゆっくり滑らせる。
















『我が血と、契約に従い、我を守り賜え』











龍飛の黒い刃は血を吸い取るように、一瞬、赤く変色した。









契約が終えた龍飛は、一瞬だけ、赤く変色するのだ。













『―――我らヒビキ一族との盟約は今、果たされた。四神が一匹、東の青龍が召喚された』













『御祝い申し上げます若様!我ら一族の悲願がついにっ』



















儀式を無事終えたキラの一言に、見守っていた分家の長たちが感激の声を上げた。












退魔一族の筆頭、クライン家に相当する力が手に入ったのだ。






同じ四神を手にしたヒビキ家が頂点に立つことも可能になったことに、喜ぶのも当然だった。



















『――ありがとう。ラクスもありがとう、……ごめんね』


















祝宴を挙げようと興奮する分家の長たちを宥めながら、キラはラクスに微笑みかける。






消え入りそうな儚い微笑みにラクスは息を呑んだ。










父親も母親も亡くしたった一人となってしまい、泣きたいはずなのに笑顔の裏に必死で押し殺して。




















ヒビキ一族をまとめあげる本家の当主として、弱みを見せれない立場を理解しているのだ。





















『……キ‥ラ』









泣き虫な貴方。












泣き虫なのに、泣くことが赦されない立場になってしまわれたのですね。
















それは致し方のないこと。











でもそれでも、貴方は。














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