月無夜
□月無夜
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『契約の時でございます、若君』
珍しく朝から放課後まで何の問題もなく学校生活を終えたキラとラクスは、世間話をしながら校門を出た所、黒塗りの車から見知った顔ぶれがぞろぞろと現れた。
そしてキラの目の前まで来ると、恭しく膝をつき頭を垂らす。
『奥様がお亡くなりになられました。今日より、我らの主はキラ様ただお一人』
――母さんが、死んだ。
『どうか、屋敷にお戻り下さい。そして龍飛と血の契約を』
―――星見で、一つの星が流れるのを知っていたのに。
『龍飛は既に回収しております。儀式のお支度も万事整い、あとはキラ様がお越しいただければ』
――――嫌な予感はずっとしていたのに。
ラクスは隣にいるキラに視線を遣るが、彼は固まって動かない。
瞳を見開いたまま静止してしまっていた。
『――わたくしがクライン家当主名代として、儀式での祝詞を致しましょう。その御役目、いただけますか?』
『総本家の巫女姫さまッ!奥様もお慶びになられると存じます』
ラクスの申し出にヒビキ家分家の長たちは、深く頭を下げた。
『さあ、参りましょうか、キラ』
冷たくなった手に温かな指先が絡まる。
呆けていたキラはその温度差で我に返った。
優しいラクスの微笑みに、絶望の底にあった心が掬い上げられ、砕け落ちてしまいそうだった足に力が戻る。
『―――う、ん』
何もない闇の中でキラは、たった一つの光を掴んだのだった。
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