月無夜

□月無夜
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第九夜《彼ノ夜》











冷たくて、黒い雨。







わたくしを消し去ってくれればいいのに。








黒く塗り潰して、闇にしてくれればいいのに。































「ラクス」


















でも、貴方がいるから。























「濡れちゃうよ」



























貴方が、傘を差し出して下さるから。


























「はやく、家に帰ろ」

























貴方は、わたくしが闇に堕ちるのを赦さないから。



























「はい、キラ」
















わたくしは今もここに在る。





































熱い腕がわたくしを捕えて、離さない。









キラの吐息が近くに聞こえて、熱い。

























「……っき、‥ぁ」















頭がどろどろにとけて、思考回路が鈍くなってゆく。




















「‥らく、…す」


























貴方に抱かれている瞬間(とき)だけですの、わたくしがわたくしで在るのを赦されるのが。















わたくしは咎人だから、何も望んではいけない。
















ただの人間として生きてはならない存在。





























「…ッキ、ラ!」























けれど、貴方とは別。







貴方と二人だと、そんな決意も消えて失くなってしまう。










世界には貴方とわたくしの二人だけだから、ただの女になれる。




















「……あ、ぃ、し‥」












何も考えなくてすむ。









責任を総て忘れられる。






















「愛してる、ラクス」














貴方がいるから、わたくしがいるのです。










わたくしにはもう貴方だけしかいないの。





























――だから、貴方だけは生きて。



















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