月無夜

□月無夜
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『……ラクス〜?ただいま』












『おかえりなさいませ、お姉様』













治療を終えたミーアはそろそろっと自室に戻った。ラクスには余計な心配させたくないから、包帯は服の下に隠している。























『今日もお勤めご苦、ろ…ッ』










『ラクスッ?!』
















優しく微笑んでいた顔が苦痛に歪み、ラクスの床に崩れ落ちた。


















『ラクス、ラクス!!』











『だ、大丈‥夫ですわ。すこし目眩がしただけですから』















青白い顔でラクスは必死に笑顔を作った。





















『そんな顔色で言われても説得力がないわよ!もう無茶しないで』


















ミーアはラクスを支えながらベッドまで行き、彼女を寝かせる。















『今日は気分が良かったのです。だから少しお出かけしましたの』
















『ら、ラクスッ!敷地内からでたら、変な気に』





















クライン邸は強い結界が施され、邪悪なモノは決して入ることができない。







また清浄な気で満たされている為、都会の一等地に建っていようが療養には最適な場所でもある。














霊力が失くなりかけたラクスも、結界内にいたからこそ死なずにすんだのだ。クライン邸にある神木の桜から精気を与えられ、死ななかったのだ。
























『久方ぶりにお外にでましたわ。とても邪悪な気で満ちておりました』












『なんで、無茶したのよ!』


















布団に深く顔を埋めながら、ミーアは声を震わした。








少しでもラクスが危険な状態になるだけで、身体が震えてしまう。




失うという、恐怖が襲い掛かる。














『これをお渡ししたかったのですわ。もう7月。今日はわたくし達の誕生日です』
















ラクスはサイドテーブルに置いてあった小包を手に取った。
















『……わ、すれてたわ』











『お姉様、最近は芸能活動とお勤めでとてもお忙しかったですものね。仕方ありませんわ』
















ラクスに言われミーアはカレンダーに視線を投げる。何の印もないカレンダーだが、日にちは確かに自分達の誕生日だった。





















『ご、ごめん。何も用意してなかったわ』













『いいえ、お姉様はわたくしの代わりにお勤めを頑張って下さっていますもの。それだけで十分ですわ』














ラクスは輝きを失った赤月晶のピアスに触れる。二年間も朱雀を召喚できていないのに、シーゲルはラクスから赤月晶を取り上げるようなことはしなかった。













ミーアがいくら希望しても、シーゲルは頑なにそれを拒んだ。












ミーアは片翼の朱雀を今でも使役している。













それが納得できないでいた。














『お誕生日おめでとうございます、お姉様』












『ありがとうラクス』


















ミーアはすっかり細くなってしまった妹を抱き寄せた。





















『――あら?お姉様、それは新しい髪飾りですわね』













ラクスはミーアに抱き寄せられたことで、髪を飾っていた光りが目に入った。








細かい細工と、美しいアメジストの薔薇の、銀色の簪。

















『あ、…うん。キラに貰ったの』














『仲がよろしくて、羨ましいですわ』












にっこりと優しく微笑んでいるラクスに、ミーアはぎこちなく笑い返した。













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