絶対零ド
□絶対零ド
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『やっばー。ここどこだろ』
カポカポと馬の蹄の音が、泣きたくなるくらい静かな森に響くだけで、他の物音は感じられない。
“護衛をつけずに平民街へっ?!殿下、少しは身分をお考え下さいませっ”と、城を出て来る時に、口を尖らせて言っていた近衛兵の言葉が嫌でも頭をよぎる。
彼は親が貴族で、元老院メンバーでもあるから真面目なのだ。
幼少の頃から、城へあがり、政治を学んでいたので僕とも他の兵よか顔見知りだった。
政治よりも皇家御一家をお守りしたい、と言って近衛に入団した彼は、僕の軽率な行動を見逃しはしなかったのだ。
他の兵たちは毎度のことだと、もう諦めているというのに彼は今だに許してくれない。
軍人に護衛されたほうがよっぽど目立ってしまう、と反論しても着いて来た彼を撒くためにいつもより森に深く入ってしまったのが凶と出たわけだ。
今現在、僕がいる森は、ベテランの人でも迷い行方不明になって帰らない、と噂の森なのだ。
そんな馬鹿なと、本気にはしていなかったが、完璧に方向感覚を失い、遭難してしまった。
今の現状に、渇いた笑いしか口から出されない。
どうすれば良いのかと、馬を進めて行けば、何故だが辺りは暗くなってきて、ヤバすぎだ。
獣の声まで幻聴で聞こえ出してきそうで、背中に嫌な汗が流れる。
城に戻らないことはまあよくあることだから、捜索部隊が編制されるのは早くても三日後ぐらいだ。
それまでにサバイバルと、いうことになるわけだが。
まあ皇子にしては逞しく育ったと自負しているから、サバイバルは大丈夫。
ただ、城に帰ってからの近衛や父上のお叱りを考えると頭が痛くなった。
知らない土地で歩き回るの危険すぎるが、どうにか捜索隊が編制される前に城への道を見つけておきたい。
―――ガサガサッ
『?!!』
びくぅと情けないくらい肩が揺れた。
変な物音がなかったのに、突然茂みから派手な音が奏でられた。
ガサガサとかゴソゴソとか、この森では聞こえなかった音が前方のよく生い茂った部分から響く。
小動物のようなものではない。
それなりの質量を伴う何か。
武器は護身用の短剣だから、熊とか猪を仕留めきれるか不安だ。
『……来るなら来いッ』
なるようになれっ。
熊なら馬を走らせて逃げ、猪ならば頭を使って仕留めて今日のご飯決定!と、身構えていると、想像していたのとはまったく違うモノが出て来た。
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