絶対零ド

□絶対零ド
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泣いていた。






ラクスは確かに泣いていた。









“おかあさま”と譫言で呟きながら、泣いているラクスを見るのは別に始めてじゃなかった。










何度か、抱いて眠っていると、夜中泣きながら母親を求めるようなことがあった。












夜というよりは月を極度に嫌っていて、何か問いただしたい気持ちもあったけれど、夜中泣いていることは、どうやら無意識のようだったし、何故だか聞けなかった。














ラクスがジュリアナ様の御子であったと聞かされ、なんとなく事情を理解した。



ジュリアナ様が薨去なされたのは、おそらくラクスが5歳かそこらだっただろう。









それにもしかしたら、あの小屋で暮らしてきたのかもしれない。











クライン公爵家の邸宅に住まなかったのは、正体が漏れるのを恐れたからだろう。














彼女はいつから、あの小屋で、たった一人で暮らしてきたんだ?











まさかジュリアナ様が薨去なさった時から、たった一人で?













5歳そこらの少女が、たった一人で生きていけるわけがないが、常識を覆すことのできる血を持った血族を、僕は知っている。








神の庇護を独り占めしているかのように、不可能なことはおそらく一つもない血族。











この帝国の、真の支配者である、皇族だ。

















ラクスはその皇族の最たる者、皇玉に選ばれ、この帝国の皇として生まれた皇女なのだ。















その背中に背負ったものは、彼女を孤独にさせる。






計り知れないものが、彼女を押し付ける。









君を助ける資格が一番ないのは、僕なのかもしれない。








現皇帝の血をひくたった一人の皇子で、皇位を争うことになるかもしれない僕が、彼女を抱きしめてあげる資格はない。






彼女が憎んでいる血を、僕は受け継いで生きている。


















「お…か、さま」






母親を求め、泣いている君を慰めるてあげていいのは、僕じゃないんだ。だけど、それを誰かに渡したくない。







こんな形になっても、僕は変わらず君を愛しているから。












交わることのない道を君は進んでいるけれど、僕はそれでも諦めたくないんだ。僕は、交わっていない道を、また交合わてみせる。












それがたとえ、君と皇位を争うことになっても。














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