絶対零ド

□絶対零ド
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皇族は絶対で、かけがいのない存在。それは帝国中が知っていることだし、誰もが認めていること。









皇族代表、ルレリア・ジュリエット・ヴァン・トリアス様。







皇族の長として、貴族、民衆の支持が大きい方だ。皇位継承権を持った皇子皇女が不在であった頃、皇帝である父上ですら、その身分を尊重なさっていたほどに。






皇族の血をひいていないとしても、父上はこの帝国の皇帝で、なにもかも思い通りになる方なのに、皇族の方たちだけは派手に手出しすることはできないでいる。

















『いいか、キラ。これ以上、皇位について言うことは赦さぬぞ!!お前は紛れも無い私の後継者で、次の皇はお前なんだッ!!!』










『父上っ』








『二度は言わん!!寝て、頭でも冷やせっ』










父上とは、出陣が決まるまで話すことはなかった。頑なに僕を否定した父が理解できなかったし、どうしてそこまで僕の皇位にこだわるのかも解らなかった。






ラクスをそんなに皇位に就かせたくないのだろうか。彼女の優秀ぶりには、元老院の議院や長老たちが認めているというのに。















出陣が決まった晩、前日の夜に、父上に呼び出された。

















『……この度の戦、お前は決して死ぬなッ!!なにがなんでも己の身だけを守れ。どんな犠牲があろうとも、お前はここに無傷で戻って来るのだぞッ。そのために、近衛をお前に貸し与える!よいな!私が言ったこと、忘れるなっ』












強く訴える父に、僕はなにも言えなかった。今まで何回かの戦は経験してる。今回より危ないものにも身を投じてきた。



それなのに、父の反応は今まで以上の何かを感じた。確かに戦と死は隣り合わせにある。








けれど、父が言いたかったのは、“戦死”を恐れたものではなくて、何かもっと深いモノな気がしてならない。







何が言いたかったのか、結局分からずじまいで、この戦に出向き、そしてその戦は終わった。























「こりゃ、元老院が大騒ぎになるぞ。ここまで、鮮やかに終わっちまうとは。……なあ?」







「――元老院たちも、彼女の戦いの能力を認めざるを得ないでしょう。これで少しは皇宮も静かにな……何ですか?」










じとぉとしたムゥの視線に、キラは横目で彼を捉えた。







遠目でローレンスの様子を傍観していた二人は、仕事がない状態だったのだ。







兵たちへの指示は、全て総指揮官である皇女殿下が一手に担い、他、各都市の知事とはすでに会談を終え、カミーユの知事は戻ってしまった。






彼女の手際の良さに、皇子も近衛隊長も、あっぱれだと思うしかない。
















「おま…キラ殿下は、なんか変わった様子だな。何か腑に落ちないって、顔してるぞ?」







「今は二人ですから、以前のようにしてもいいですよ?」







窮屈そうに話すムゥに、キラは苦笑いすると、どうぞと言って促した。




ムゥは近衛隊長としてキラに武術を教え、師弟関係にあったのだ。ムゥは身分を考え、昔のようにフレンドリーな態度は控えるようにはしているが、不器用な性分で、下手くそなのだ。









「そうか。で、お前さん、何か気になってんだろ?それって、今回の戦のことか?それとも、新しく現れたあのお姫さんのことか?」









ニシシと笑うムゥに、キラは溜め息をこぼすと、ゆっくりと首を横に振った。














「戦に対しては、…皇女殿下は申し分のないことをしました。しかし、父上の言葉が少し…」







「陛下、がか?――確かに、今回の戦に近衛は必要なかった。ラクス皇女殿下の皇軍もついているというのに、陛下は何故俺らをわざわざ」








「父は、――お前の身を守るため、だと言っていました。確かに近衛は皇族を守るためにあります。しかし、帝都に留まり、父を守ったほうが…」













俯きながら話すキラの様子を、ムゥは黙って見つめた。












「帝国軍が一部欠け、さらに近衛まで欠けてしまったら」









「――陛下は、お前の身を安じたんだ。疑うな。父親だろう?」











辛そうな面持ちのキラに、ムゥは明るく笑いかけると、くしゃくしゃと髪を撫でた。














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