月無夜
□月無夜
1ページ/7ページ
第六夜《双ノ夜》
水、東の青龍。
火、南の朱雀。
風、西の白虎。
地、北の玄武。
四方を司る神獣。
彼らを従えるには並大抵の霊力では叶わない。
水を司る東の青龍の主。
火を司る南の朱雀の主。
風を司る西の白虎の主。
四神の主が同じ瞬間(とき)に三人も揃うことは前代未聞のことであった。四神は各世界に散らばっているからである。
四神が四匹揃った時、大いなる力が現れると陰陽師一族には言い伝えられている。
その力が、陰のものなのか、陽のものなのか、知る者は誰一人としていない。
青龍が宿った黒刀龍飛の現在の主は、古くから陰陽師の一族をまとめあげてきたヒビキ家当主。
名をキラ・ヒビキ。
ヒビキ家最後の生き残りである。
カテゴリーAの存在を追う主戦力の一人として、アークエンジェルに在籍。
現在は恋人と同棲中。
恋人もまたアークエンジェルに在籍。
「へぇ。ヒビキ家最後の生き残り…彼が、ね」
トントンと机を人差し指で叩きながら、青年はラップトップの画面を見つめる。
「やっぱり、似ている」
青年は頬杖をつきながら、どこか哀愁漂う笑みを浮かべた。
「――ディア・アンバー」
青年が呟くと音もなく白虎が召喚された。家具が極端に少ない一室に、白い獣が召喚されると広かった部屋が狭くなる。
「……早く、逢いたい」
青年は座る相手のいない椅子を見つめる。家具は少ないが全てが二つずつあった。
第三者が見れば二人暮らしをしているかのように見える。
しかし、そこにいるのはたった一人。
他には誰もいない。
「どこにいる、カテゴリーA」
天井を仰ぎ見た彼は、瞳を切なく揺らした。
「ディア・アンバー…ッ」
青年は白虎の瞳を見つめる。
タイガーアイの深い色に、胸が締め付けられた彼は、静かに瞼を伏せた。
「――さて、と。似合う?」
新品の服に袖を通した彼は、キョトンと首を傾げる白虎に優しい笑みをこぼす。クスクス笑う主人に白虎は甘えるように擦り寄った。
「お前も寂しい、のか。…俺も、寂しい」
甘えてくる白虎の毛並みを撫でながら、彼は瞳を閉じた。
.